まもなく見納め「銀座線渋谷駅」の謎 東急百貨店3階発着の地下鉄 その81年の歴史

駅と百貨店を一体に 交通結節点「玉電ビル」から「東急会館」へ

 3つ目の謎は、この駅ビルは元々、渋谷駅を発着する路面電車を運行していた玉川電気鉄道(後に廃止・地下化され東急新玉川線となり、現在は田園都市線)が自社のターミナルビルとして計画した、「玉電ビルディング」だったということです。

 東京横浜電鉄にとって玉川電気鉄道は同じ渋谷を拠点とするライバルであり、玉電ビル計画は東横百貨店の脅威となりうる存在でした。そこで1936(昭和11)年、東京横浜電鉄は玉川電気鉄道を敵対的買収して傘下に収めると、玉電ビルの建設を自らの手で進めることにしたのです。

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2020年3月に閉館する東急百貨店東横店の南館。背後の高層ビルは、2019年11月に開業した複合施設「渋谷スクランブルスクエア」(2019年7月、大藤碩哉撮影)。

 玉電ビルは1937(昭和12)年、地上7階、地下2階という当時としては画期的な規模で着工。その2階に玉川電気鉄道の渋谷駅、3階に東京高速鉄道の渋谷駅が入り、山手線の渋谷駅とも直結する交通結節点「ユニオンステーション(集合駅)」と名付けられました。
しかし、日中戦争の勃発により物資の統制が開始され、工事は4階でストップ。百貨店としての開発は頓挫してしまいます。戦争を生き延びた玉電ビルは、1954(昭和29)年に戦前の計画を上回る地上11階建てのビルに増築され、「東急会館(東急百貨店東横店西館)」に改称されました。

 1970(昭和45)年には西館の脇に南館が新築され、東急百貨店東横店は長らく、東館、西館、南館の3館体制で営業されました。しかし2013(平成25)年、再開発によって東館は解体。残る西館、南館も2020年3月末に閉館し、解体後は高層ビルに建て替わる予定です。

 銀座線渋谷駅に別れを告げに行く人は、銀座線とともに渋谷の街を盛り上げてきた、東急百貨店西館にも注目すると面白いかもしれません。

【了】

【写真】明治通り上で屋根を動かす! 新・渋谷駅の移設工事

Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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