FFは異端な戦車世界 イスラエル「メルカバ」なぜフロントエンジン フロントドライブ?

車体後部のスペースは汎用性抜群

「メルカバ」戦車は、車体後部にエンジンがないため、後面に乗員の乗降ドアが設けられています。ここを用いれば味方の負傷兵を収容することや、走行不能に陥った僚車の乗員を一時的に乗せることが容易です。

 また万一、自車が走行不能に陥った際に、乗員が車体を盾にして安全に逃げられると同時に、最前線で戦闘中に、車体後方から弾薬などを安全に補給することもできます。

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「メルカバ」Mk.3の砲塔内部。「メルカバ」には自動装填装置がないため、装填手が人力で戦車砲弾を出し入れする(画像:イスラエル国防軍)。

 とはいえ、フロントエンジン式にもデメリットがないわけではありません。エンジンが被弾しやすいこと以外にも、車体前部に操縦席スペースを設ける必要があるため、リアエンジン式と比べて機関室のスペースが制限されることから容積効率は悪いです。

 またメンテナンス用のハッチが車体前部にあるため、その部分は防御上の弱点となります。前述した防御力強化が目的のフロントエンジン化と矛盾しますが、車体前面の装甲はどうしてもリアエンジン式よりも弱くなる可能性があります。これに関しては、装甲で防御力強化を図るか(リアエンジン式)、車両全体で防御力を考えるか(メルカバ)の違いともいえます。

 このように、フロントエンジン式であることは決してメリットばかりではないのですが、それでもあえて「メルカバ」戦車がフロントエンジン構造を採用し、いまだにそれを踏襲しているのには、イスラエル陸軍に徹底して自軍将兵の流血を防ぐというポリシーがあるからといえるでしょう。

【了】

【写真】イスラエルでは当たり前 「メルカバ」に乗る女性戦車兵

Writer: 柘植優介(乗りものライター)

子供のころから乗り物全般が好きで、車やバイクはもちろんのこと、鉄道や船、飛行機、はたまたロケットにいたるまですべてを愛す。とうぜんミリタリーも大好き。一時は自転車やランニングシューズにもはまっていた。

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コメント

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2件のコメント

  1. 中東で最も優しい世界

  2. 20年以上前の話。こんな防御は今の戦車には通用しない。そもそもメルカバは砂漠で戦う前提だから車体は隠れるから被弾しにくい。