US-2飛行艇 モノはいいのになぜ売れない? 日本の飛行艇技術 継承困難になる可能性
世界でも高評価を得るUS-2 なのに輸出が振るわないワケ
US-2の性能は世界でも高く評価されており、複数の国と輸出に向けた話し合いが進められています。そのなかで最も輸出の可能性の高いインドとは、かなり具体的な話し合いが行なわれていますが、2013(平成25)年5月の協議開始からまもなく7年になろうとしている2020年現在に至っても、合意に至っていません。
インドとの交渉が進まない最大の理由は、US-2が高性能な飛行艇であるが故に、価格が高いためだといわれています。ロシアのベリエフが生産しているジェット飛行艇Be-200の価格が約7000万ドル(約75億4500万円)であるのに対し、US-2の価格は123億円(2013年度防衛省調達課価格)と50億円近く高価であり、近年、経済成長の著しいインドであっても、おいそれと手が出しにくい価格であると筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)も思います。
輸出交渉が難航している理由は価格だけではありません。欧米やロシア、中国の企業が発展途上国や中進国に防衛装備品を輸出する際には、しばしばその国の現役の軍人が輸出先の軍隊へ派遣されて、運用や整備をサポートすることがあります。
US-2は高性能であるがゆえに運用や整備が難しく、海上自衛隊でも高い技術を必要としているのが現状です。これまでUS-2のような大型飛行艇を運用した経験のないインドが同機を運用するためには、経験を積んだ海上自衛隊の隊員が一定期間、インドで運用や整備の支援を行なう必要があると考えられます。
ところが、現時点において民間企業である新明和工業の、ビジネスであるUS-2の輸出を、防衛省・自衛隊が支援する仕組みはなく、これもインドとの交渉が難航している理由のひとつと考えられます。
日本の国産防衛装備品は他国の同等品と比べて高価だといわれていますが、輸出の販路を拡げることでそんなに量産効果による価格の低下が図れるものなのでしょうか。
また、国防上重要な技術を要する飛行艇ならば、多少高くても自衛隊などが定期的に買い支えるものではないのですか?
AG600の設計にあたっては民間の耐空性基準を採用し、民間機としての型式証明を得ることを前提にしています。
具体的には、アメリカの14CFR Part25に該当する中国航空局CCAR-25が設計基準となっているのです。
この基準は、日本だと耐空性審査要領の第三部にあたりますが、内容が国ごとに違っているというのではなく、ほぼアメリカの14CFR 25をコピーしたものです。
一方、US-2のような「パワード・リフトSTOL機」では、その耐空基準を満足することは絶対にできません。
主翼が前進することで発生する揚力だけではなく、エンジン後流の吹き降ろしも使って機体を支える「パワード・リフト機」は、通常の飛行機とは全く違った特性を持っているからです。
US-1やUS-2の設計は、この「全く違った部分」の安全性を独自技術で確保していますが、それは国際的な基準の評価を経たものではなく、あくまで「メーカーと防衛省が審査して許容した」ものにすぎません。
従って、どう頑張ってもUS-2は自衛隊や海外軍隊以外で使用することはできませんが、AG600であれば普通の飛行艇として運用や輸出が可能なのです。