高速バス事業者は「籠城」に備えよ 再び需要減退 再運休 「常態」までの長期戦シナリオ
乗り切ったあとに待ち受ける変化とは?
「緊急事態」では、ウェブ通販などの物流センターで働く従業員が増加するとともに、「密」防止のため乗車定員を絞ったことで、従業員送迎バスの運用台数も急増しました。しかし周囲の事業者が完全に休業しており、応援の要請を受けられない事態もありました。事前に調整することで、車両や乗務員を有効に活用することもできるでしょう。
もちろん、本業である高速バスの需要回復に向けた活動も重要です。おもな感染経路が唾液の飛沫だと理解が進んだことで、車内で会話しながら食事したりしない限り、交通機関の車内空間そのものの感染リスクは小さいと考えられるようになりました。
しかし、換気の重要性も伝えられているうえに、消費者の間では「バスや電車で感染するかもしれない」と危惧がなかなか消えません。そのようななか、約5分で車内の空気が入れ替わるという高速バス車両の換気性能を、実際に車内にスモークを充満させ換気して見せる動画を各社が公開し、大きな反響を得ています。個別の事業者単位ではなく、事業者団体などを通し業界横断的にマスメディアなどを通して情報を発信するのが、さらに有効だと考えられます。
やがて感染が収束しワクチンが開発されるなどすれば、消費者心理は回復するでしょう。その時、高速バスの需要が完全に元に戻るとは限りません。高速バスは地方部で高いシェアを持ち、コンサートや有名店でのショッピングなど大都市での消費活動、出張、就職活動などに伴う移動を支えていますが、それらの形態が変化し、移動のニーズが減ることも考えられるからです。
そもそも「コロナ」前から地方部では人口減少が進んでおり、需要減少が危惧されていました。輸送人員の減少を、単純な値上げやコスト削減による品質低下で補おうとすれば、乗客はさらに逸走します。繁閑に応じ、曜日別や時間帯別に運賃を変動させる「ダイナミック・プライシング」など、これまでバス業界の取り組みが遅れていた分野に、この時期だからこそ挑戦する機会だとも言えます。足元では「籠城」に徹し体力温存を図りつつ、感染収束後のニーズ変化に真摯に立ち向かい、柔軟に対応することが求められているのです。
【了】
Writer: 成定竜一(高速バスマーケティング研究所代表)
1972年兵庫県生まれ。早大商卒。楽天バスサービス取締役などを経て2011年、高速バスマーケティング研究所設立。全国のバス会社にコンサルティングを実施。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員など歴任。新聞、テレビなどでコメント多数。
デパ地下とコラボして貨客混載で何とか乗り切ってほしい…。