海戦はスピード勝負! 艦艇の速力は海戦で「カタログ値」どおりだったのか?

第1次大戦後ますます高速化 40ノット超えも

 第1次世界大戦以降、各国の軍艦はますます高速化していき、戦艦より一回り小さい巡洋艦は30ノット(55.6km/h)以上出ることが当たり前になっていきます。駆逐艦に至っては40ノット超えの艦も登場するようになり、なかには駆逐艦史上最速の45.25ノット(83.8km/h)を記録したフランス駆逐艦「ル・テリブル」の例も。脚が速ければ、強大な戦艦にも肉薄して魚雷攻撃を仕掛ける機会が生まれますし、敵艦の頭を抑える戦術機動でも優位に立てるため、速力は重要でした。

 旧日本海軍では1941(昭和16)年に行われた演習において、金剛型戦艦4隻からなる第三戦隊が、29ノット(約53.7km/h)での昼間教練射撃を行っています。この演習は平均射距離25.5kmの遠距離射撃でしたが、初弾命中を得ています。

 金剛型戦艦の最高速度は30ノット(約55.6km/h)なので、それにほぼ近いスピードで航行しつつ、実戦さながらの最高速度での遠距離砲戦を行ったといえるでしょう。

 最高速度27ノット(約50km/h)で「遅い」と批判される大和型戦艦も、大和が1942(昭和17)年6月に28.5ノット(約52.7km/h)、武蔵も公試で28.1ノット(約52km/h)を出すなど、カタログ値を上回る速度も記録しています。なお、冒頭に記したとおり、一部の乗組員の証言では29.3ノット(約54.2km/h)を記録したという話もあります。

 大西洋に目を転じてみると、1934(昭和9)年に就役したドイツのドイチュランド級装甲艦も「15~20cm砲の巡洋艦を圧倒する28cm砲」と「当時の戦艦では大半が追い付けない26ノット(約48km/h)の速度」を有し、戦略的に対抗が難しい艦型と考えられていました。なお、装甲艦は26ノットが公表値でしたが、「アドミラル・グラーフ・シュペー」が公試で28.5ノット(約速53km/h)を記録するなど、実際には28ノット(約52km/h)を超えていました。ドイツのビスマルク級戦艦も、公表値は最高速度27ノット(約50km/h)でしたが、実際にはテストにおいて30.8ノット(約57km/h)を記録しています。

 これら日独の戦艦たちを上回る俊足ぶりといえるのが、アメリカのアイオワ級戦艦です。カタログ値では最高33ノット(約61.1km/h)ですが、1968(昭和43)年に、戦艦での世界最高速力35.4ノット(約65.6km/h)を記録しています。同時に、戦時中では対空火器の増加などで排水量が増えたこともあり、「機関に過負荷をかけない最高速度は30ノット(約55.6km/h)」と規定されています。

 ちなみに、軍艦の最高速度は速度計測時の水深や、海流の流れ、風向き、燃料や弾薬の消費状態などで変化します。水深は浅い方が水底の影響を受け速力が増し、燃料や弾薬の搭載量が少ない方が、船体そのものが軽くなるため、速力が出ます。そのため、前述したような速力はあくまでも目安でしかありません。

【写真】「世界最速」の駆逐艦

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コメント

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2件のコメント

  1. 金剛型戦艦4隻が実質唯一の使える戦艦だったのだ。そしてそれは太平洋戦争唯一の戦艦対戦艦にてアイオワ級に叩きのめされたのだ…!

  2. 最大戦速25ノットの地方護衛艦に乗り組んだ事がありますが
    第3戦速(24ノット)でのハープーン甲板(後部甲板)から眺めます、盛り上がるウェーキー
    「キーン」というガスタービンエンジンの音、それらは圧巻でした。

    現在、新日本海フェリーの航海速力30.5ノット(56.4km/h)との事ですが
    秒速(風速)15.6mにもなると、上甲板は風圧でまともに歩けませんね。
    航路上で漁船、漁網ブイ、漁網標識、まれにアシカと遭遇したり、イルカと並走したりしますが
    緊急回避が難しい速力だと思いますので、貨客船とはいえ安全航海を祈願して、やみません。
    面白い記事ですね、ありがとうございました。