海戦はスピード勝負! 艦艇の速力は海戦で「カタログ値」どおりだったのか?

現代の各国軍艦は速力30ノット前後に…なぜ?

 では、上述したように第2次世界大戦まで高速化する一方だった各国の軍艦が、おしなべて21世紀の現在、速力30ノット前後に落ち着いたのはなぜでしょう。

 それは、航空機やミサイル、誘導爆弾の進歩によるものが大きいです。例えば、米国の開発した対艦ミサイル「ハープーン」は124~315kmの射程距離を持ち、かつレーダーによる誘導で高い命中率を誇ります。水上艦艇の速力が数ノット違っても、戦術機動でミサイルの投射量を増やせたり、誘導爆弾を回避できたりするわけではありません。現代では機関出力よりも兵器搭載量など、別のリソースに重量を割くことが妥当ということです。

 結果、現代の水上艦は敵艦と速度比べをする場面も少ないことなどから、高速力へのこだわりは見られなくなったといえるでしょう。海上自衛隊護衛艦など、現代の水上艦の多くが最高速度30ノット(約55.6km/h)とされています。とはいえ、この数字はあくまでも公表値、すなわちカタログスペックのため、実際にはさらに速く航行できるといわれています。

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2022年前半就役予定の護衛艦「もがみ」。速力は約30ノット(画像:海上自衛隊)。

 ちなみに21世紀の現在、国内航路の長距離フェリーに乗ると、前述した旧日本海軍の戦艦のスピードを疑似体験できます。たとえば新日本海フェリーの「はまなす」「あかしあ」は、航海速力30.5ノット(約56.4km/h)と、金剛型戦艦並みの速度を誇ります。

 同じく「すずらん」「すいせん」は航海速力28ノット(約51.9km/h)、太平洋フェリーの「いしかり」「きそ」は最大速力26.5ノットから26.73ノット(約49km/hから49.5km/h)の高速力で航行しています。こうした形で過ぎ去った歴史に思いを馳せるのも、おもしろいのではないでしょうか。

【了】

【写真】「世界最速」の駆逐艦

Writer: 安藤昌季(乗りものライター)

ゲーム雑誌でゲームデザインをした経験を活かして、鉄道会社のキャラクター企画に携わるうちに、乗りものや歴史、ミリタリーの記事も書くようになった乗りものライター。著書『日本全国2万3997.8キロ イラストルポ乗り歩き』など、イラスト多めで、一般人にもわかりやすい乗りもの本が持ち味。

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コメント

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2件のコメント

  1. 金剛型戦艦4隻が実質唯一の使える戦艦だったのだ。そしてそれは太平洋戦争唯一の戦艦対戦艦にてアイオワ級に叩きのめされたのだ…!

  2. 最大戦速25ノットの地方護衛艦に乗り組んだ事がありますが
    第3戦速(24ノット)でのハープーン甲板(後部甲板)から眺めます、盛り上がるウェーキー
    「キーン」というガスタービンエンジンの音、それらは圧巻でした。

    現在、新日本海フェリーの航海速力30.5ノット(56.4km/h)との事ですが
    秒速(風速)15.6mにもなると、上甲板は風圧でまともに歩けませんね。
    航路上で漁船、漁網ブイ、漁網標識、まれにアシカと遭遇したり、イルカと並走したりしますが
    緊急回避が難しい速力だと思いますので、貨客船とはいえ安全航海を祈願して、やみません。
    面白い記事ですね、ありがとうございました。