元祖は戦車ぽくなかった自走砲 足まわりの変遷 原点回帰する「大砲を楽に動かす努力」

現代の「装輪式」自走砲はチェコスロバキアから

 戦後の本格的な装輪式自走砲は、1981(昭和56)年から配備が始まったチェコスロバキア(当時)の「ダナ(DANA)」が最初です。国産のタトラ815トラックをベースにしていました。チェコ、スロバキアは昔から工業先進国で、「ダナ」には自国の産業保護育成という側面もありました。

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1981年から配備が始まったチェコスロバキアの装輪自走榴弾砲「ダナ」(画像:チェコ国防省)。

 その流れをくむチェコのエクスカリバー・アーミーが発表した、最新8×8装輪式の155mm自走榴弾砲「ディータ」は、砲兵のイメージを一新させるものです。陸上自衛隊の主力火砲である155mmりゅう弾砲(FH70)は、移動はトラックで牽引する必要があり、かつ操作人員9名、大砲の据え付け、自己位置標定、弾薬運び、装填など人海戦術の力仕事イメージです。しかし「ディータ」は自走でき、砲員は最低2名、位置評定から信管調整、自動装填、射撃まで完全に自動化されており、防護されたキャビンの中でタッチパネルを操作するだけで射撃できます。日本の19式装輪自走155mmりゅう弾砲も自動化されていますが、砲員は5名、車外に出て砲を操作しなければなりません。

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チェコのエクスカリバー・アーミーが発表した最新自走砲8×8装輪式155mm自走榴弾砲「ディータ」(画像:EXCALIBUR ARMY)。

「必要は発明の母」といわれますが、重い大砲を楽して、かつ効果的に扱いたいという自走砲のルーツは意外に古いものです。自動車発明の契機にもなりました。そしていまや最大射程39kmの155mmりゅう弾砲が2名で扱える時代です。ミサイルなど精密誘導兵器やAI、ドローンが注目され、大砲など時代遅れといわれそうですが、新車がなお発表されるということはまだニーズは無くなっていない証左です。

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榴弾砲弾着地の様子。地面は掘り返され、砲弾の破片が散らばる。観測機材防護用鉄筋コンクリート製のU字工材もこの通り(2020年10月14日、月刊PANZER編集部撮影)。

 時代とともに戦争のやり方が多次元化、複層化していますが、軍事力整備には各種兵器とのバランスが必要です。装輪式自走砲はお金をつぎ込むほどではないが不要でもない、という妥協の産物のようでもあります。

【了】

【画像】世界最初の自動車による世界最初の自動車事故の様子 ほか

Writer: 月刊PANZER編集部

1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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コメント

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1件のコメント

  1. キュニョーの蒸気自動車、発想が牛馬の代わりとなって砲を「牽引する」ではなく車体後半の荷台に砲を乗せるつもりでいたというのが面白いですね。