防衛省が検討「宇宙巡回船」の野心的なミッション 宇宙状況監視衛星兼“宇宙の灯油配送カー”

野心的すぎる「宇宙巡回船」

 世界を見れば、こうした衛星はすでに打ち上げられており、実績はあります。アメリカの大手航空企業ノースロップ・グラマン傘下にあるスペース・ロジスティクスが、ミッション・エクステンション・ヴィークル(MEV:Mission Extension Vehicle)として2基(MEV-1、MEV-2)を打ち上げ、通信用のインテルサット衛星の運用寿命を延ばすのに成功しています。

 ただ、“送り先”のインテルサット衛星は、運用途中で燃料を補給することを考慮した設計にはなっていなかったので、タンクに燃料を注入するのではなく、MEV自体がインテルサット衛星に取り付き、自身の持つ姿勢制御システムで、取り付いたインテルサット衛星の姿勢制御を補助するという設計でした。

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MEV-2の赤外線広角カメラで15mの距離から撮影されたインテルサットIS-10-02の画像。このあとドッキングした(画像:ノースロップ・グラマン)。

 冒頭に記した当該記事を読むと、防衛省が考える「宇宙巡回船」は、このような「宇宙状況監視」と「衛星の長寿命化」の2種類の役割を一つの衛星で担おうというように書かれているため、たとえるならば、海上自衛隊のP-3CやP-1といった哨戒機と、航空自衛隊が持つKC-767空中給油・輸送機の両方の機能を持つ“多用途機”を生み出そうというものだと言えるでしょう。

 これが実現できれば確かに画期的なことですが、もともと役割が違う「宇宙状況監視を担う衛星群」と「長寿命化のための燃料配達衛星」をひとつにしたところで、中途半端なものができてしまうのではないかとも思えます。どちらの役割でもも、そもそも自らの燃料消費自体が大きくなるミッションを担うので、なおさらです。

 深読みするなら、「実現できるか分からない野心的な取り組みだ(原文ママ)」と言う防衛省幹部のコメントには、前出の筆者(金木利憲:東京とびもの学会)が憂慮する点も織り込まれているような気がしてなりません。

【了】

【安全保障分野における宇宙利用のイメージ/宇宙作戦隊の所在基地】

Writer: 金木利憲(東京とびもの学会)

あるときは宇宙開発フリーライター、あるときは古典文学を教える大学教員。ロケット打ち上げに魅せられ、国内・海外での打ち上げ見学経験は30回に及ぶ。「液酸/液水」名義で打ち上げ見学記などの自費出版も。最近は日本の宇宙開発史の掘り起こしをしつつ、中国とインドの宇宙開発に注目している。

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コメント

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2件のコメント

  1. 軌道上の物体を監視するのであれば、米国のAN/FPS-108みたいな高出力で高い分解能を持つ地上レーダーを複数設置するほうが性能的・コスト的にも良いのでは?

  2. 監視なら地上のレーダーで良さそうな気がするし…衛星って10年もしたらバッテリーも太陽電池もヘタッてしまうし、燃料だけ給油できるようにしても意味なくない?