「キエフの幽霊」って何者? ウクライナ空軍に1日で6機撃墜のエースパイロット誕生か

「救国のエース」はおとぎ話か?

 ウクライナ国防省など当局の発言を信じるならば、「キエフの幽霊」は存在するようです。

 しかし、これはあくまでウクライナ当局を信じるならばの話です。「キエフの幽霊」とされる写真は、戦争前からウクライナ空軍のWEBサイトに掲載されていたものでした。またロシア機を撃墜するビデオも、この世界の誰かが戦闘機ゲーム(皮肉にもロシア製)の映像を加工したフェイクであり、ウクライナ当局が転載したものでした。

 国家存亡をかけた戦争において、使えるものは嘘でもなんでも使う、いわばウクライナによるプロパガンダ、日本風にいえば「大本営発表」であり、「キエフの幽霊」は文字通り幽霊に過ぎないと思われます。

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Su-25攻撃機。地上の味方に対する近接航空支援が主任務(画像:UAC)。

 一方で、ロシア空軍がかなり大きい損害を出しているらしいことはほぼ間違いなく、事実はいまだ不明ですが、そうしたなかには戦闘機による撃墜があるともされます。見方を変えるならば、ウクライナによる防空戦闘そのものが「キエフの幽霊」であり、その象徴となったともいえます。

 おそらく「キエフの幽霊」誕生のきっかけは、誰かが面白半分でいい始めたものでしょう。それが極めて短期間で、しかも世界中で広く受け入れられたのは、プロパガンダの結果というよりもむしろ、「超大国の横暴に立ち向かう」「弱きを助け強きを挫く」「絶望的な戦争における救国の英雄」といった、古今東西の英雄伝説に共通する要素をすべて備えた「キエフの幽霊」を、ウクライナのみならず世界中が強く望んだからなのでしょう。

 繰り返しになりますが、「キエフの幽霊」は少なくとも特定の人物ではないでしょう。しかし、事実かどうかは重要ではないのかもしれません。本土決戦という過酷な状況において抵抗の象徴となり、嘘でもいいから「キエフの幽霊」がいると言えば、それで十分価値があるからです。

 ひょっとしたら我々は、500年後や1000年後に「ロビン・フッド」や「スサノオ」、実在の人物ながら虚実入り混じった「ジャンヌダルク」や「弁慶」などと並び称される、空の英雄伝説の誕生を目撃しているのかもしれません。

【了】

対するロシア空軍の最新戦闘機 Su-35

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Writer: 関 賢太郎(航空軍事評論家)

1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。

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コメント

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2件のコメント

  1. スツーカ大佐出番です。大好物のイワンの奴等が集結しています。設計に携わり、DNAを色濃く受継いだサンダーボルトを駆って、赤い奴等を殲滅して下さいませ。スターリンの亡霊プーチンにも、民族最大の敵として君臨して下さいませ。

  2. ラーズグリーズの亡霊みたいな語感・・・やっぱり新作ゲームかな。