軽視ダメ、ゼッタイ! ウクライナ戦で「ロジスティクス」を甘く見たロシア軍の失態

最前線に届いていない食事と燃料

 さらに、移動速度も平素の高速道路のように素早く走れるわけではありません。道路には瓦礫などの障害物があったり、場合によっては寸断されていたり、狙撃や地雷など含めた敵の攻撃による脅威もあったりするでしょう。こうした危険から部隊を守るため、補給線の安全を確保しなければならないのですが、補給線が延伸すればするだけ安全確保は難しくなります。

 こうした点を考えると、十分なサービスを行きわたらせるためには、前線から兵站拠点までの距離は、概ね100km以内が理想だといえるでしょう。

 実際には、大規模な兵站拠点を300km先に設けたとしたら、中継地点となる中規模な拠点を100kmごとに設置して、さらに末端の部隊にサービスするための小規模な兵站拠点を前線から50km以内に設けることが理想です。こうすれば、部隊は効率的に動き続けることができると考えられます。

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ウクライナ領内に乗り捨てられていたロシア軍の燃料タンク車(画像:ウクライナ軍参謀本部)。

 しかし、今回のロシア軍は十分な兵站機能を設けずに部隊をウクライナへと送り込みました。そのため、前線の兵士らはまともな食事を摂ることもできず、戦車などは燃料切れで立ち往生しています。

 ウクライナとロシアは、依然として一進一退の攻防を繰り広げていますが、このままロシア軍の部隊再編がうまくいかなければ、軍事弱小国家ともいえるウクライナにも勝機が見えてきます。広大な領土を持つロシアは、ウクライナ正面だけに部隊を集中させることができません。そのため、ロシア軍が現状以上の部隊をウクライナに投入することは非常に難しいと考えられます。

 また、ロシアが受けている世界規模の経済制裁に、ロシア国民がいつまでも我慢できるとも考えられません。両国ともにこれ以上の犠牲や損害を増やす前に、プーチン大統領は自身の独断で始めたであろう“短期(短気)決戦”を終結させるべきなのです。

【了】

【実戦さながら】派米訓練で陸上自衛隊が用意した数々の補給品ほか

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Writer: 武若雅哉(軍事フォトライター)

2003年陸上自衛隊入隊。約10年間勤務した後にフリーフォトライターとなる。現場取材に力を入れており、自衛官たちの様々な表情を記録し続けている。「SATマガジン」(SATマガジン編集部)や「JWings」(イカロス出版)、「パンツァー」(アルゴノート)などに寄稿。

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コメント

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3件のコメント

  1. 日本という傍観者の目から味方を設定したとして、その側がやることは全て正しいのかどうか。その間にも非戦闘員は亡くなっているのだし、真に憎むべきは戦争そのものだ。日本ができるのは難民に対する支援だろう。

  2. とても分かりやすい内容でした。
    兵站は、部隊が大きくなればなるほど重要になりますね。

  3. ロシア🇷🇺ソ連軍は、精強とのイメージがあるが、対ナチス戦においても、後方のアメリカ🇺🇸からの物資支援に負うところが大であったと考えます。シベリア経由の米国からの支援が無ければ、恐らく、ナチスに敗れていたと思います。 また、ノモンハンでの戦いも、関東軍の一部とソ連軍の対決で有り、国家間の全力の戦いで無く、ほぼ全力で戦ったソ連軍と、対照的に海軍は全く関与せず、更には中国大陸に布陣する多くの陸軍部隊も動員しなかった日本の対応を考慮する必要があります。 ノモンハンは、日本陸軍の完敗との評価は、今覆され、実体の損傷はソ連軍の方が大であった事実が判明してます。当時の戦闘指導者と日本国政府の分析がなって無かったために、何ら根拠のない対ソ恐怖心理が残念でなりません。得撫島の最後の戦いがソ連軍の本当の力のように思います。 ハンガリーやチェコ侵攻も、組織的抵抗が行われいての戦いではなく、今回のウクライナ侵略がロシアにとって、アメリカの支援無しでの国家間の全力戦争と思います。
    日独で、第二次世界大戦時の対米英仏GDPは20%程度でしたが、今のロシアは、日本を含む米英独仏等に対して、10%以下に過ぎず、韓国よりも少ない世界第11位の国家に過ぎません。第二次世界大戦時の日独より数段、国家としては劣ると考えます。ただ、核兵器を有している事、それに頼らざるを得ない事実を考慮せざるを得ないですが。