ロシア軍の将軍クラス指揮官を次々狙い撃ち なぜ可能? ウクライナの戦術にNATOの影
冷戦期にNATOが考えた対ソ連軍戦術の概要
かつての東西冷戦下、旧ソ連が盟主を務めるワルシャワ条約機構は、同様にアメリカが盟主を務めるNATO(北大西洋条約機構)と、ヨーロッパ正面において真っ向から対峙していました。
当時、ワルシャワ条約機構は、質はともかく、数的には兵員、戦車などの装甲戦闘車両、軍用機という全ての面で、NATOを凌駕していました。ただ内実は、一般兵はもちろん下士官にまで経験と練度において不足した徴集兵が多く含まれており、仮にも士官教育を受けた尉官級のいわゆる下級士官にも、現場での判断権を与えていなかった当時の社会主義の軍隊特有ともいえる「上からの命令に下を盲従させる」スタイルで、この巨大組織を動かしていたといえるでしょう。
数的劣勢に悩むNATOは、ワルシャワ条約機構のこの点に注目しました。NATO各国の軍隊は、民主主義国の軍隊らしく下士官、下級士官、中級士官という各指揮階級に対して相応の指揮権限を付与しており、必要に応じて独自の責任の下、行動することを許していました。
ゆえに、それとは逆の理念で運用されているワルシャワ条約機構の組織的運用を阻害して機能不全に陥らせるには、各級の指揮官を抹殺すればよいと思いついたのです。要は「頭」さえ叩き潰せば、残された「手足」は統制のとれない無秩序な動きになり、組織として効果的な戦闘を行えなくなるということです。
そこでNATOは、電波傍受や電子的あるいは映像的な偵察によって、ワルシャワ条約機構側の指揮中枢を見つけ出す能力を高める方向に舵を切り、冷戦終結後の今日に至るまで、小隊長よりも連隊長、師団長よりも軍司令官という、より上位の指揮官を見つけ出して叩き潰すという戦い方を研究し続けてきました。
結果、筆者(白石 光:戦史研究家)が推察するに今回のウクライナ紛争では、NATOが長年培ってきた前述の戦い方が奏功し、実に11人もの上級指揮官が失われたのではないかと考えるのです。
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