ロシア軍の将軍クラス指揮官を次々狙い撃ち なぜ可能? ウクライナの戦術にNATOの影
ウクライナの背後にちらつくNATOの影
では、具体的にはどのような方法で行ったのか。それについては、これはおそらくウクライナ独自の情報収集能力だけでは難しいと考えられるため、NATO側がリアルタイムでウクライナ側に情報を提供し、それに基づいて各級の指揮中枢を「狙い撃ち」しているのではないかと思われます。
また、これもあくまで筆者の推察ですが、ウクライナ入りしているアメリカやイギリスの軍事顧問団のなかに、NATOからもたらされる各種の偵察情報を受け取ったうえ、現地で収集された情報も加味して、叩くべき指揮中枢を決めている頭脳集団がいるかもしれません。
なお、公表すればロシア側の士気低下とウクライナ側の士気高揚に効果的なロシア軍上級指揮官の殺害こそ大々的に報道されていますが、最前線では、同様の情報分析によって小隊長、中隊長、大隊長といった下級指揮官も、かなりの人数が「狙い撃ち」されている可能性も考えられます。もしかしたら、それがロシア軍の攻勢の低迷にかなり影響している可能性も、なきにしもあらずかもしれません。
では具体的に、上級指揮官らはどのような手段で排除されているのでしょうか。日本における報道のイメージでは、まるで凄腕の狙撃手に暗殺でもされているように受け取られかねない「狙い撃ち」という言葉が使われています。しかし、師団や軍団の司令部が所在する戦線後方に狙撃チームが入り込むことはきわめて困難であり、よしんば狙撃に成功しても、生還はほぼ不可能です。
海外のニュースソースを翻訳した「狙い撃ち」という言葉から考えられるのは、文字通り狙撃銃で狙い撃ちしている以外にも、たとえば移動指揮車の車列を、航空攻撃や砲撃、あるいはドローンによる精密攻撃などで攻撃しているというのも含まれます。
いまだ先が見えないロシア軍によるウクライナ侵攻。戦いが続けば、ロシア軍はさらに多くの上級指揮官を失う可能性が高いと思われます。
【了】
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
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