時速100万km! U-2「ドラゴンレディ」偵察機の史上最高速度はいかに記録されたのか

「時速100万km」という速度が解き明かす「宇宙の真理」

 太陽系が銀河系を回る速度は時速約100万kmで、これと関わっている可能性がありそうでしたが、問題は「対宇宙マイクロ波背景放射速度」のベクトルがそれとは完全に逆向きだったことで、すなわち銀河系の回転で時速100万kmも遅くなっているにも関わらず、それでも「対宇宙マイクロ波背景放射速度」は時速100万kmだったのですから、どうやら「地球は銀河系ごと時速200万kmで宇宙を突き進んでいる」という事実だけがわかりました。

 その後、数十年に渡る観測事実の積み重ねによって、「銀河系は約6億5000万光年彼方に存在する正体不明の重力異常に向けて時速200万kmで自由落下し続けているのだ」という説が有力となっています。この重力異常は「グレートアトラクター(大きな引力)」と命名されており、我々の銀河系から約1億光年内に存在する比較的近い約2000個の銀河も、同じようにグレートアトラクターへ向けて落下し続けています。

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観測されたビッグバンの残り火、宇宙マイクロ波背景放射。青い方向は近づいており赤い方向は遠ざかっていることを示す。予測されたまだら模様は後に発見(画像:NASA)。

 何が我々を引っ張っているのか、果たして落下地点に何があるのかは分かっていません。残念ながらグレートアトラクターは我々の銀河系を挟んでちょうど反対側の方向にあり、直接見ることができません。一説には約8万個の銀河からなるシャプレー超銀河団がグレートアトラクターの正体であるともされます。

 あと1億年ほどすれば銀河系の反対側まで太陽系が移動しますから、長生きすればいずれ何があるのかを知ることができるでしょう。このとき銀河の公転時速100万kmとグレートアトラクター時速200万kmの速度ベクトルがほぼ一致するため、「対宇宙マイクロ波背景放射速度」は時速300万kmとなっているはずです。

 1976年のSR-71による対地速度記録は21世紀中にも更新されてしまうかもしれませんが、1976年のU-2による「対宇宙マイクロ波背景放射速度」記録は、あと数千万年は更新されないでしょう。

【了】

そこもうほとんど宇宙でしょ U-2から見える「景色」

Writer: 関 賢太郎(航空軍事評論家)

1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。

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