戦車は走るよ将来も! 決して終わっていない「陸の王者」の欧米における開発の現状
一方アメリカは「次世代戦闘車両」に夢をギッシリ詰め込んで…!
アメリカは、1981(昭和56)年に制式採用されたM1「エイブラムス」を、改良を重ねつつ使い続けています。
アメリカ海兵隊は、冒頭で触れたように戦車を廃止する方向ですが、戦車不要論に立っているわけではありません。同海兵隊が運用する120mm砲を搭載したM1A1「エイブラムス」が就役したのは1985(昭和60)年のことで、近代化改修を続け2050年までは使い続けられる予定です。ただ、現代戦に必須のデジタル機器に必要な発電容量や、車内容積不足などに限界点も見えてきました。
そうした限界の露呈を受けてか、アメリカ陸軍では、従来の戦車とは異なるカテゴリーとなる複数の「NGCV(次世代戦闘車輌)」の研究開発が始まっています。その責任者である同陸軍のコフマン少将は「『エイブラムス』はまだ世界最高の戦車であるが、次に来るものを研究する必要もある」と述べており、そして2019年11月には、「NGMBT(次世代主力戦車)」のデジタルワークショップが立ち上がりました。
「NGCV」は、ロボット戦闘車を基軸とする「ハイテクノロジー夢いっぱいプログラム」で、重量級ロボット戦闘車(RCV-H)が戦車の任務を引き継ぐ構想です。しかし、ロボット戦闘車技術が本当に実戦に使えるのかは分からないのが現状で、まだ進捗は混とんとしており、そして一方のNGMBTは姿かたちも見えてきていません。
21世紀はハイテクノロジーを駆使した「新しい兵器による新しい戦い方」になると思われていましたが、ロシアによるウクライナ侵攻はその認識を覆させました。ハイテクノロジー戦争は妄想で、人間はそれほど進歩していなかったのかもしれません。
ヨーロッパとアメリカとでは、未来の戦車への取り組みの方向性に違いがあります。ヨーロッパでは堅実守旧的なMGCS、アメリカは夢いっぱいのNGCV、NGMBTを目指しており、いずれも完成までは何十年もかかる長期プロジェクトです。ロシアによるウクライナ侵攻の帰結は予想がつきませんし、戦訓を検証するには長い時間がかかるでしょう。予想のつかない未来に向けた戦車開発は、国家の運命を掛けた博打でもあるのです。
【了】
Writer: 月刊PANZER編集部
1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。
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