台湾待望の最強戦車M1「エイブラムス」 運用開始で島の守りどう変わる?
台湾陸軍の防衛戦略どう変わる?
ただ、台湾としては、いざ有事となっても、戦車部隊の出動だけは避けたいでしょう。なぜなら、それはすでに敵に上陸されてしまったことを意味するからです。
不運にもそのような事態に至ってしまった場合、台湾は沿岸部に広がる平野部が狭く、海辺近くまで山岳部が迫っている箇所が多いため、海岸平野に上陸した敵(中国軍部隊)は、内陸への浸透経路となる山岳部の道を台湾陸軍に確保されてしまうと、身動きが取りにくくなってしまいます。
ゆえに台湾陸軍は、戦車部隊をはじめ歩兵や砲兵、工兵などを協同させ、それらの浸透経路を封鎖すると同時に、敵が上陸した海岸平野の占領地域がそれ以上拡大しないように抑え込み、同盟国からの援軍などを待つことになるでしょう。また、もし戦闘の推移によって戦況が有利に傾けば、海への追い落としを図るべく、敵の海岸堡に対して攻勢を仕掛けるケースもあると思われます。
逆に、上陸した敵の自力排除が困難な状況となれば、周辺の市街や主要道路に、戦車とそれを支援する歩兵などを配して防御拠点を構築し、敵の進撃速度を鈍らせ、多大な出血を強いる遅滞戦闘を行って、同盟国軍の来援や増援兵器の到着を待つことになりそうです。
このような防戦の場合は、やや古くなったM60A3 TTSやCM11「勇虎」でも待ち伏せ戦術などによって十分に戦えるので、おそらくM1A2Tは局地的な反撃などを行う際の切り札的存在として、戦闘に投入されるのではないでしょうか。その際には、現在のところ実戦において最強の戦車という折り紙を付けられた同車が、台湾陸軍にとっても「最強のルーキー」となることでしょう。
とはいえ、もしそこまでの本格的な台湾侵攻を中国が行ったとなると、日本の先島諸島にも被害が及んでいないわけがありません。M1A2T戦車が戦わずして、台湾の抑止力として機能することを、筆者(白石 光:戦史研究家)は願うばかりです。
【了】
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
コメント