渋谷駅の顔だった「地下鉄が地上3階から発車するビル」なぜできた? 解体直前~現在の記録
渋谷駅ターミナルビルのひとつであった東急東横店西館は、湾曲した壁面と、東京メトロ銀座線が建物内の3階から発着するのが特徴的でした。80年以上「渋谷の顔」でしたが、2022年現在は再開発により解体が進みます。
地下鉄が地上ビル3階に達する不思議
渋谷駅は数多あるターミナル駅の中でも、群を抜いて複雑な構造でしょう。駅全体を覆うように、高層ビル建設を伴う大規模再開発事業が本格化し、乗り換えが分かりにくいという声も多々聞きます。私(吉永陽一:写真作家)は渋谷出身ですが、それでも再開発中の乗り換えは正直迷ってしまいます。もう数年ほどの辛抱でしょうか。
とはいえ渋谷駅は物心つく前から見てきたので、だんだんとこの複雑な建物構造とターミナル駅に興味が湧くものです。「地下鉄なのにビル3階から発車する銀座線」と言うと、なぞなぞの問いかけかと思います。この独特な構造は、渋谷駅が谷底にあって、地下の浅い銀座線が表参道から渋谷に向かうとビル3階に到達するのだと、幼少期に大人たちから教えられました。
渋谷駅は宮益坂と道玄坂に挟まれており、国土地理院地図で高低差をみると、それぞれの坂の上は海抜約33mで、渋谷駅は海抜約14m。その差は19mと、いかに谷底にあるか分かります。
そのビルとは、かつて「東急会館」と呼ばれた「東急東横店西館」です。JR山手線の西側にそびえる11階建てのビルでした。再開発に伴い、2020年9月をもって閉業したわけですが、周辺工事が進む2022年8月、解体の過程で一瞬、80年前の竣工時の躯体が露わになったのです。9月現在は仮囲いがなされ4階相当まで低くなり、往時の面影は消えつつあります。
西館が竣工するきっかけは銀座線と、既に廃止となった路面電車の玉川電気鉄道(現・東急田園都市線)でした。1934(昭和9)年、東横線を運行する東京横浜電鉄が山手線の東側に「東横百貨店」ビルを開業すると、西側では玉川電気鉄道がターミナルビル「玉電ビル」を計画しました。双方の会社は山手線を挟んでライバルでしたが、先手を打ったのが東京横浜電鉄で、1936(昭和11)年に玉川電気鉄道を買収して自社傘下の関連会社にしました。
玉電ビル計画は東京横浜電鉄が推進し、地上7階・地下2階建のビルを着工します。地下鉄(後の銀座線)乗り場は玉電ビル3階に設置することとなり、路面電車の玉電は2階に。百貨店併設ターミナルビルとして華々しくデビューする予定でした。
南北線や都営三田線の品川駅も高架構造でええんちゃう?