英国生まれ米国育ち? VTOL攻撃機「ハリアーII」初飛行-1978.11.09 アメリカ主導でパワーアップ!
英製「ハリアー」の限界、米製「ハリアーII」の誕生
しかし、ホーカー・シドレー「ハリアー」の性能はVTOL機という特性ゆえに問題点も抱えていました。それは、同クラスの戦闘機と比べた場合、航続性能や兵器搭載量が少ないという点です。VTOL能力を獲得するためにこの機体は可変ノズルといった独自装備や、それを達成するための設計上の制約も持ち合わせており、その結果、純粋な固定翼の攻撃機と比べて相対的に低性能になっていました。
これはアメリカ側だけでなく、開発元のイギリス自身も感じていたことで、初代「ハリアー」の就役後に両国で別々の改良型開発計画がスタート。当初、イギリス側はホーカー・シドレー(現BAEシステムズ社)、アメリカ側はマクドネル・ダグラスがそれぞれ担当していたものの、改良発展型の開発を最後まで続け、軍の採用にまでこぎ着けたのは後者の方だけでした。
1976(昭和51)年7月27日にマクドネル・ダグラスの計画はアメリカ国防総省に承認され、名称がAV-8B「ハリアーII」に決まります。変更点は主翼の大型化や機体胴体の延長といった機体形状の変更はもちろん、内部のアビオニクスなどにまで手が加えられていました。
特筆すべきは、攻撃に使うセンサーとして火器管制システム「AN/ASB-19 ARBS」を装備したことで、より高精度での攻撃も可能となった点にあるでしょう。こうして劇的な性能向上に目途が付いたことで、「ハリアーII」の開発にはイギリス側も参加することになり、以後は米英共同で進められるようになります。とはいえ、このような経緯により、開発のイニシアチブはアメリカが握ったとされています。
こうして生まれた「ハリアーII」は、アメリカ海兵隊のほか、スペイン軍やイタリア軍にも採用され、イギリスでもブリティッシュ・エアロスペース社が独自の改良を加えた「ブリティッシュ・エアロスペースハリアーII」を生み出し、同国空軍と海軍で用いられています。
なお、アメリカ海兵隊の「ハリアーII」はその後も逐次、改良が加えられ、赤外線センサーを追加したナイトアタック仕様や、APG-65火器管制レーダーを装備した「AV-8B+」といった派生型も誕生しました。
このように長年、アメリカ海兵隊の航空戦力のシンボルとして活躍してきた「ハリアーII」ですが、機体の老朽化に伴って、現在は後継機であるF-35B「ライトニングII」への更新が進められています。現在の運用スケジュールによると、アメリカ海兵隊の「ハリアーII」は2026年に運用を終了する予定とのこと。一時は日本の空も飛び回っていた同機も、元気な姿が見られるのは、あと少しに迫っています。
【了】
Writer: 布留川 司(ルポライター・カメラマン)
雑誌編集者を経て現在はフリーのライター・カメラマンとして活躍。最近のおもな活動は国内外の軍事関係で、海外軍事系イベントや国内の自衛隊を精力的に取材。雑誌への記事寄稿やDVDでドキュメンタリー映像作品を発表している。 公式:https://twitter.com/wolfwork_info
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