「世界で最も静かな飛行機」どう実現? 求められた“夜のジャングル飛んでもバレない”性能
わずか1年半で軍から退役 でもNASAやFBIで再雇用へ
YO-3Aは11機製作され、うち9機が1970(昭和45)年からベトナムで戦闘に用いられています。前線では暗視スコープを用いた索敵に最適な高度300mから360m程度で飛行し、攻撃目標を見つけると、位置を確認したのち、近くで待機していた武装ヘリが現場へと急行して攻撃するという方法で運用されました。
ベトナムでは故障などで2機が事故により失われたものの、敵に撃墜された機体はありませんでした。ただ、1971(昭和46)年8月にはベトナムでの任務が終わり陸軍から全機が退役したため、その運用期間はかなり短かったといえるでしょう。その後、NASAで研究用に、FBIで密漁や密輸監視に使用されたほか、ルイジアナ州政府野生動物局でも使用されています。
NASAでは暗視スコープを取り外し、代わりに音響センサーを取り付け、ヘリコプターやティルトローター機が飛行中に発生する音の分析を行う研究に用いられました。ちなみに、筆者(細谷泰正:航空評論家/元AOPA JAPAN理事)もアメリカに在住していた1980年代半ばに、NASAのエイムズ研究所が併設されているモフェットフィールドで行われた航空ショーでNASAのYO-3Aの展示飛行を見たことがありますが、このときは飛行音測定のデモ展示として、UH-1汎用ヘリコプターと編隊で基地上空を飛んでいました。
このように、特殊な用途に用いるために開発された機体のため、YO-3Aの生産数はわずか11機で終わったものの、そのうちの5機が全米各地の博物館で展示されています。それ以外にも個人所有の1機が格納庫で保管されており、飛行可能な状態にレストアされる日を待っています。
YO-3Aは、速く飛ぶのではなく、ゆっくりと静かに滞空するための飛行機であるため、ひょっとしたら近い将来、その飛行する姿を航空ショーなどで再び披露する日が来るかもしれません。
【了】
Writer: 細谷泰正(航空評論家/元AOPA JAPAN理事)
航空評論家、各国の航空行政、航空機研究が専門。日本オーナーパイロット協会(AOPA-JAPAN)元理事
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