発想は「走る機関銃」 これで戦場には出たくない…幻の珍兵器「モータースカウト」

現代装甲車のルーツと自動車黎明期という時代

 このように、「モータースカウト」は現代装甲車のルーツとはいえませんが、シムズが次に設計した「モーター・ウォー・カー」は、その先駆けといえるものでした。

 1898(明治31)年10月に第二次ボーア戦争が起き、アフリカ大陸でのゲリラ戦に対応できるような「走れる機関銃」を使いたいという要望がイギリス陸軍から挙がります。1899(明治32)年4月、同軍からの発注により、シムズが設計した装甲車「モーター・ウォー・カー」をヴィッカースとサンズ&マキシム社が1台、試作しました。

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「モーター・ウオー・カー」とその設計者シムズ。後部に2丁のマキシム機関銃、前部にQF1ポンド砲(AnonymousUnknown author、Public domain、via Wikimedia Commons)。

 この装甲車は全長8.5m、全幅2.4mで、ダイムラー製特注シャーシに厚さ6mmの装甲で覆われた前後の尖った船型ボディを載せ、ダイムラー製4気筒3.3リッター16馬力エンジンで最高14.5km/hにて走行しました。乗員は4名で、マキシム機関銃2丁を搭載しQF1ポンド(37mm)砲を載せることもできたようです。のっぺりとした外見でそれなりの走破性もあったとされますが、事故を起こしてギアボックスが破損するなど開発が遅れ、ボーア戦争には間に合いませんでした。

 19世紀末は内燃機関の黎明期でした。1885(明治18)年、ドイツのゴットリーブ・ダイムラーがガソリンエンジンで動く自動車の特許を出願し、同じ年カール・ベンツが実用に耐える三輪自動車を完成させています。ダイムラーも翌1886(明治19)年に四輪自動車を完成させています。

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ダイムラー・モトールキャリッジと呼ばれる駅馬車にエンジンをつけた世界初の四輪自動車(Enslin、CC BY-SA 3.0〈https://bit.ly/3EAzoyO〉、via Wikimedia Commons)。

 シムズはイギリスの自動車産業のパイオニアでもあり「ガソリン=petrol」と「モーターカー」という言葉を作りました。1889(明治22)年に26歳のシムズはダイムラーと出会って意気投合し、1890(明治23)年、大英帝国内におけるダイムラーのガソリンエンジンに関する特許の使用と製造の権利をダイムラーから購入しています。1897(明治30)年には英国自動車クラブ(後のRAC)を設立しました。

 走る機関銃「モータースカウト」は日の目を見なかった珍兵器ですが、1世紀以上経過して同じようなアイデアが実行されています。ウクライナ軍は携帯対戦車火器を携えEバイク(いわゆるモペット、電動アシスト自転車)を駆りロシア戦車と戦っています。歴史に名を残す「マークI」戦車の子孫と、あまり有名でない「モータースカウト」の子孫が戦っているともいえます。

【了】

【写真】華奢ながら洗練された「最初のベンツ」

Writer: 月刊PANZER編集部

1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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1件のコメント

  1. マーク1戦車の子孫はともかくモータースカウトの子孫はこじつけでは?