「バビロン作戦」から見た『トップガン・マーヴェリック』 劇中の作戦はシロ? クロ?
作戦に関するイスラエルの主張
1981年6月7日、イラクの首都バグダッド近郊にある研究施設にてフランスの技術提供を受け建造が進められていた「オシラク原子炉」に対し、イラク領内に侵入したイスラエル航空宇宙軍のF-16戦闘機が爆撃を実施しました(作戦には同軍F-15も参加)。これにより原子炉は破壊され、イスラエル航空宇宙軍機は全機、無事に帰投することに成功します。
この作戦に関して、イスラエルは翌日の6月8日に国際連合(国連)安全保障理事会へ書簡を提出し、その経緯などを説明しました。
それによると、オシラク原子炉は核爆弾を製造する施設であり、その標的はイスラエルだったとしています。そのうえで、原子炉の稼働が近づいてきたとの情報を入手したため、放射能汚染によるバグダッドの民間人などへの被害を避けるべく、稼働前のタイミングで攻撃を実施したと主張しました。
肝心の法的な説明に関して、イスラエルは自国とイラクが1948(昭和23)年以来、戦争状態にある点や、核施設に関する国際的な査察制度などには抜け穴がある点、さらにイラクによるウラン購入は科学研究目的というよりもむしろ兵器転用を目的とするものと見た方が理に適っている点など、さまざまな根拠を挙げました。そのなかでも、特に注目されたのがいわゆる「先制自衛(anticipatory self-defense)」に関する主張です。
国際法上、国家が武力を行使できるのは、国連による集団安全保障措置を除けば、自国や自国と密接な関係にある他国に対する「武力攻撃(意図的かつ一定のレベルを超える軍事攻撃)」が発生した場合の自衛権の行使に限られます。
この自衛権の行使に関して、特に第2次世界大戦後の核兵器の登場を背景に、敵による攻撃を実際に受けてからではなく、その脅威が差し迫った場合に先んじて自衛権を行使できるという考えが登場してきました。これが「先制自衛」です。
つまりイスラエルとしては、上記の根拠を踏まえつつ、オシラク原子炉の存在が自国に対する差し迫った脅威であった、と説明したわけです。
イスラエルが非難されて禁輸を含む制裁が発動した結果、中華人民共和国との軍事技術交流が活発化して各種の兵器生産技術が中華人民共和国へ流れた事もありましたね。