「バビロン作戦」から見た『トップガン・マーヴェリック』 劇中の作戦はシロ? クロ?
国際社会から厳しく非難されたイスラエル
しかし、こうしたイスラエルによる説明に対して、国際社会からの反応は相当に厳しいものでした。
国連安全保障理事会は、このイスラエルの行為を「国連憲章および国際的な規範に対する明白な違反」として非難する「決議487」を全会一致で採択します。さらに、国連総会決議ではイスラエルの行動を「侵略行為」とまで断じました。
また、先制自衛に関して肯定的な態度をとってきたイギリスやアメリカまでもが、イスラエルの行動を非難した点は特に注目されます。イギリスは、当時の状況では「イラクによるイスラエルに対する差し迫った脅威」は発生していなかった点、そしてアメリカは、イスラエルが外交的な手段を尽くさなかった点を理由に、それぞれイスラエルの主張を認めなかったのです。
このイスラエルの前例を基に考えると、『トップガン・マーヴェリック』における軍事作戦は、一見すると国際社会からの厳しい批判にさらされていた可能性が高いようにも思われます。ただしオシラク原子炉攻撃に関しては、イラクが核の拡散を防止する国際的な枠組みに参加し、国際機関からの査察を受けていたことが、国際社会の反応を左右していたと考えられています。となると、たとえば劇中に登場した某国がそうした枠組みに参加していないか、あるいは当該施設の査察を拒んでいた場合で、かつ核兵器を開発しているという確たる証拠がある場合には、国際社会の反応が違ったものになる可能性も捨てきれません。
映画の世界に現実のロジックを当てはめてあれこれ論ずるのは無粋でしょうが、しかしそうした視点から作品を楽しんでみるのも、たまには面白いものなのかもしれません。
【了】
Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)
軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。
イスラエルが非難されて禁輸を含む制裁が発動した結果、中華人民共和国との軍事技術交流が活発化して各種の兵器生産技術が中華人民共和国へ流れた事もありましたね。