速い・安い・高性能! でも売れず 米戦闘機F-20「タイガーシャーク」各国が見放したワケ

「想定外」だった米政府の方針転換

 その頃、アメリカ政府は輸出用戦闘機を開発する「FX計画」に着手し、台湾空軍向けとしてF-16のダウングレード版となる「F-16/79」を企画します。そして台湾政府に対してF-5GとF-16/79のどちらかを採用するよう売り込みをかけますが、結局、台湾政府は両者とも拒否しました。

 これにより、中国政府の顔色をうかがう必要がなくなったことで、既存機の型式をあえて名乗る必要もなくなり、ノースロップはF-5GをF-20へと改称。さらに、その直後には「タイガーシャーク」なる愛称も与え、F-5シリーズとは全く異なる新型機として世界市場へと売り込みをかけるようになりました。

 しかもノースロップ社は、世界で初めて公式に音速を超えた男として世界的に知られていたチャック・イェーガーを顧問に据え、F-20「タイガーシャーク」のセールスを展開します。このとき、「伝説の名パイロット」たる彼は同機の性能を高く評価しています。

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チェイス機を務めるT-38「タロン」ジェット練習機が見守る中、離陸するF-20「タイガーシャーク」。当初はこのような赤と白のツートンカラーであった(画像:アメリカ空軍)。

 ただ、その後ノースロップ社には驚くべき展開が待ち受けていました。というのも、アメリカ政府が方針を改め、政府認定の同盟国へはF-16を輸出するとしたのです。そうなると、「アメリカ空軍の採用機」というお墨付きが、セールス上、F-16を圧倒的有利に導くようになりました。加えて、採用国が増えれば量産効果も働くようになり、その結果、価格も下がっていきました。

 これを受け、ノースロップ社も、F-20に同様のお墨付きを得るべく、空軍州兵に採用されるようアメリカ政府へ働きかけを行いますが、これは実を結ぶことなく終わりました。

 こうして、高性能ながら低コストで取得・運用できる軽量戦闘機というポジションにはF-16が収まることとなり、F-20を採用する国は現れずに終わりました。そのため、F-20は試作機3機が造られただけで、このうち1号機は韓国で、また2号機はカナダでの展示飛行中にそれぞれ墜落し、前者に関しては、パイロットが殉職しています。ただ、本機の名誉のために付け加えると、どちらの事故も機体の欠陥ではなく、本機の高機動性にパイロットが耐えられなかったせいではないかと推察されています。

 傑作機になり得るほどの高性能を発揮したにもかかわらず、結局どこの国にも採用されずに表舞台から姿を消したF-20「タイガーシャーク」。唯一残った試作3号機は、2023年現在、アメリカ本土ロサンゼルスにあるカリフォルニア・サイエンス・センターにて展示されています。

 ちなみに、日本では人気作品『エリア88』において主人公の邦人傭兵パイロットが愛機として用いたことから、高い知名度を誇る機体でもあります。

【了】

【コックピットやミサイル発射シーンも】F-20「タイガーシャーク」の様々なシーンほか

Writer: 白石 光(戦史研究家)

東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。

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コメント

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1件のコメント

  1. 軍需産業と政治の癒着の弊害を軍人上がりのアイゼンハワー大統領が警告を発してたが現実的には硬貨の裏表で切り離して事を進める事は不可能なんです!
    人類の知恵が生活の向上と言いながら反面確実に破滅の方向に向かっているのも同じ事!