世界に8機だけの激レア機「KC-767」日伊が小松で初邂逅! アメリカはなぜ採用せず? きな臭い背景も
本命のアメリカ空軍に採用されず激レア機に
KC-767の初飛行は2005年で、このカテゴリーの機体としては比較的新しい方といえます。これまで紹介したように、能力的にも従来の空中給油機よりも多用途に使える高性能機といえるでしょう。しかし、なぜか現在採用しているのはイタリア空軍と航空自衛隊だけとなっています。なぜ、母国アメリカは採用していないのでしょうか。
従来、空中給油機というカテゴリーにおいて数の上で最も多く運用されているのはアメリカ製のKC-135「ストラトタンカー」です。アメリカを中心にフランス、トルコ、シンガポール(現在退役済)、チリが採用しており、その生産数は約800機にもなります。
しかし、KC-135の原型となったボーイング707は、初飛行したのが1950年代と古く、改良を続けているとはいえ、多くの機体で長期運用による老朽化が問題になっていました。さらに原型のボーイング707旅客機が製造ラインを閉じたことで、新規生産も難しい状況となっています。
そこで開発元のボーイングは、KC-135の後継機として、より新しいボーイング767を改造した新型空中給油機を構想。こうして提案されたのがこのKC-767だったのです。
KC-767を最初に導入したのはイタリア空軍で、その次が日本の航空自衛隊でした。しかし、それよりも大口の顧客として想定されていたのは、世界でもっとも多くの空中給油機を運用するアメリカ空軍でした。
アメリカでは、すでに1990年代後半にはKC-135後継機について議論されるようになっており、2003年頃には100機のKC-767をリース契約で空軍が運用する案が持ち上がりました。しかし、このリース契約はボーイングだけの単独指名で進められたことから議会が問題視し、さらに導入に関連した調達スタッフの汚職問題まで発覚したことで、最終的に契約自体が白紙撤回されてしまいます。
アメリカ空軍でのKC-767導入計画が頓挫する一方で、イタリア空軍と航空自衛隊の方はKC-767の導入を正式に決定します。なお、オーストラリアやイギリスもKC-767の導入を検討したことがあるものの、いずれも別の機体を採用しました。
また、その後アメリカは新たにボーイング767ベースの空中給油機を再選定していますが、これはより高性能なKC-46であり、KC-767とは似て非なる機体となりました。こうした経緯から、最終的にKC-767は日伊の2か国だけが採用、わずか8機しか存在しない激レア機となったのです。
【了】
Writer: 布留川 司(ルポライター・カメラマン)
雑誌編集者を経て現在はフリーのライター・カメラマンとして活躍。最近のおもな活動は国内外の軍事関係で、海外軍事系イベントや国内の自衛隊を精力的に取材。雑誌への記事寄稿やDVDでドキュメンタリー映像作品を発表している。 公式:https://twitter.com/wolfwork_info
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