【空から撮った鉄道】実は“平成の新造SL”であった 引退迫る「ハチロク」58654号機 SL人吉ほか
「ハチロク」こと8620形蒸気機関車の58654号機は、JR九州の動態保存機として活躍してきました。しかし、老朽化とメンテナンス確保などの問題から動態の維持が困難となり、2024年3月に運転を終了します。2012年と21年に上空で出会った勇姿を紹介します。
この記事の目次
・日立製作所に8620形の設計図があった
・在りし日の第二球磨川橋梁にて
・21世紀のSL! 現代の高架駅から発車
・九州初の鉄道があった場所
・建て替わらず残る昔日の国鉄風景
【画像枚数】全23点
日立製作所に8620形の設計図があった
2022年10月、JR九州から出されたニュースリリースには「SL人吉 58654号機百歳記念イベント開催!」との見出しがあり、8620形蒸気機関車の58654号機が、1922(大正11)年の製造から100年を迎えたことを紹介していました。一方、同じリリースの文末には「『SL人吉』の今後の運行について」とお知らせがあり、58654号機が製造100年を迎え、部品調達やメンテナンスを担う技術者の確保が難しくなり、2024年3月頃で運転を終了する旨も記載されていました。
58654号機は1975(昭和50)年に運用離脱後、肥薩線の矢岳駅に隣接した屋内展示施設で保存されていました。屋内展示とボランティアによるメンテナンスが幸いして、1987(昭和62)年の九州鉄道100周年にちなみ動態復活することとなり、JR九州小倉工場にて修復作業を実施。要となるボイラーを新造するほどの大規模な修復となりましたが、1988(昭和63)年に見事復活しました。
その後の活躍はご存じの方も多いことでしょう。豊肥本線や肥薩線での勇姿は多くのファンを魅了しました。2005(平成17)年、軸受の異常発熱から台枠の歪みが発覚し、もう運転は不可能かと思われましたが、偶然、日立製作所に8620形の台枠などの設計図が保管されていたことが分かり、この図面を基にしてJR九州は台枠を新造します。あわせてボイラーも修繕し、機関車のベースとなる箇所は、平成の世にほぼ新造という形で、奇跡の復活を成し遂げたのです。
台枠は車両の骨組みであり、それがダメになれば動態保存機は再び静態保存へと余生を過ごすもの。58654号機の奇跡の復活は、私たち鉄道ファンには衝撃的なニュースでした。58654号機は言わば“新製蒸気機関車”の状態となり、再々復活となったのです。航空機では、例えばアメリカで飛行するゼロ戦のように、ウォーバードをほぼ新造して飛ばすことがあります。製造当初のパーツはほんの一部のみで、そのほかは設計図を基にして新造する。その形態と似ているなと思いました。
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Writer: 吉永陽一(写真作家)
1977年、東京都生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、建築模型製作会社スタッフを経て空撮会社へ。フリーランスとして空撮のキャリアを積む。10数年前から長年の憧れであった鉄道空撮に取り組み、2011年の初個展「空鉄(そらてつ)」を皮切りに、個展や書籍などで数々の空撮鉄道写真を発表。「空鉄」で注目を集め、鉄道空撮はライフワークとしている。空撮はもとより旅や鉄道などの紀行取材も行い、陸空で活躍。