海運「2050年ゼロエミ“必達”」下された号令 可能なの? 新燃料船は今どうなっているのか
IMO(国際海事機関)の新戦略により、海運業界は 2050年にカーボンニュートラル“必達”となりそうです。それを達成するための新燃料船の開発や実用化は、どこまで進んでいるのでしょうか。専門家は“陸側の取り組み”も求めています。
陸側でも取り組んでくれないと達成不可能?
こうした新燃料船が次々に登場しているとはいえ、2050年カーボンニュートラルに向けてこれらが日本で急速に広まるかどうかは不透明な状況です。既存のディーゼル船を置き換え、GHGの排出量を抑えられるLNGやLPG(液化石油ガス)、水素、アンモニア、メタノールなどを使用する新燃料船へ切り替えるには、2030年以降で年間1億総トンレベルの建造が必要とされています。
日本造船工業会の金花芳則会長(川崎重工業会長)が「環境規制により各船社は2050年までに現存船を総取り換えする方向に動いており、新造船の建造量は大幅に増加するものと見ている」と話すように、新造船需要の拡大をチャンスと見る向きもあります。
一方で、そもそも港湾側のインフラが整っておらず、LNGやメタノール、アンモニア、水素といった燃料を供給するのに必要なバンカリング船も普及が進んでいません。EV船に関しても陸上側に充電設備を置く必要がありますが、本格的な整備はこれから着手することになっています。
例えばスイスの重電大手ABBは15メガワットまで対応可能な給電システムを開発しており、船舶側の設備が整えば電気の供給や大容量バッテリーへの充電が可能にはなるものの、そう簡単にはいきません。
「6万ボルトの電力を250アンペアという量で供給しないと15メガワットにはならない。つまり特別高圧電力の契約が必要になり、麻布台ヒルズのような都市の開発と同等の電力量になってくる」(清水教授)
加えて清水教授は「船の寿命は20年から30年。特にいま建造している船は、2050年も確実に動いている。それを考えると、船の世界だけでカーボンニュートラルは難しく、陸上側の方でカーボンネガティブを作ってもらう必要があるのではないかと思っている」と話します。
カーボンネガティブとは大気中に放出されるCO2の量より、吸収するCO2の方が多い状態を指します。たとえば、港湾にCO2を除去・吸収する技術を導入し、港湾側でネガティブになった部分をカーボンクレジット(CO2の排出権)として海運会社などに売ることで、船舶運航全体のカーボンニュートラルを達成することも一つのアイデアでしょう。
いずれにせよ、海事産業だけでは2050年カーボンニュートラルの実現は非常に難しく、鉄道、自動車、飛行機など他のモビリティやインフラの整備も含めて社会全体の問題として捉えていく必要があります。
【了】
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