ローカル線=「国民に大負担」 100年前に問題予測 “我田引鉄”に斬りかかった男の主張とは

利用がなく赤字のローカル線は廃止すればよい――このような声は一部で聞かれ、また鉄道会社も収支状況を公表し、路線改廃へ向けた議論を行いたい考えです。ただ、このようなローカル線問題を100年前に提唱した人物がいました。

時の政権は「建主改従」論を支持

 日本で商用自動車が普及しはじめるのは大正時代に入ってからのことです。T型フォードなどの輸入車販売が本格化すると、自動車教習所が開設され、自動車取締令が公布されました。

 全国の自動車保有台数は大正初頭の1000台程度から1920年頃には1万台程度まで増えますが、1926(大正15)年に4万台を超えたように、関東大震災以降にバスとトラックが本格的に導入されます。

 木下は震災直後の1923(大正12)年9月6日、48歳の若さで病没していますが、彼はイギリスやアメリカなど、自動車が鉄道に取って代わりつつあった海外交通事情の研究を通じて、日本に本格的な自動車時代が到来する以前から、未来の鉄道像を見通していたのです。

 しかし日本初の本格的政党内閣である原敬内閣の時代、ローカル線建設を推進する政友会に一官僚が異を唱えるのは異例のことです。この頃の鉄道政策は、政友会を中心にローカル線建設を優先すべしとする「建主改従」論と、幹線を改軌し輸送力増強を優先すべしとする「改主建従」論が対立していました。

 木下は「地方の新線建設の急は何ら特に差迫りしものもないのであるが、既成線の運輸量は目下大正四年頃に比してほとんど二倍に達し、東海、山陽、東北緒線は貨客非常なる混雑を来している」と述べているように改主建従論者でした。目をつけられた彼は左遷され、やがて病気で退官しました。

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豪雨災害により不通が続くJR米坂線の代行バス(画像:小国町)。

 人々の生活に「交通」は欠かせませんが、必ずしもそれが「鉄道」でなければならないわけではありません。ローカル線の見直し論は国鉄民営化の結果という声もありますが、本当に使いやすい交通機関は何かという議論は、はるか昔からあり、その論点も今に通じるものだったという事実は示唆に富んでいるように思えます。

【了】

地方路線は悲鳴… JR東・西日本の赤字線区を見る(路線図)

Writer:

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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