大井町線で成功の東急「Q SEAT」なぜ東横線で不振? 地下鉄直通も最善じゃない座席指定サービスの“明暗”
そもそも存在が認知されているのか
課題は列車の可視化かもしれません。通常の座席指定列車はターミナル駅に一定時間停車するため、ホームで普通列車を待つ利用者から車内でゆったりと座る乗客の様子が見えます。列車の存在に気づいてから特急券売機に向かう時間もあります。
一方、地下鉄直通列車は数分間隔で走る普通列車の合間を走るため、停車時間は長くても1~2分しかなく、たまたま遭遇しなければ存在を意識することはありませんし、直前に特急券を買おうとしても時間切れで乗れません。
運行開始当初の「メトロホームウェイ」はダイヤの都合上、運転間隔が不均等で、いつ運転しているのか分かりにくいことが、利用が伸びない要因とも思われましたが、1時間間隔で発車するダイヤになっても劇的に改善したとは聞きません。「S-TRAIN」も「THライナー」も1時間間隔の分かりやすいダイヤですが、同様です。
ただ、Q SEATは列車の一部に指定席を連結するサービスであり、「TJライナー」など丸ごと指定席の列車とは違います。後者は通常とは異なる列車を意識的に選択させる必要がありますが、Q SEATは普段使っている列車にプラスアルファの選択肢を用意するサービスです。
これを突き詰めたのが、(こちらは自由席ですが)東海道線や宇都宮線といった中距離電車の全列車にグリーン車を連結するJR東日本です。東横線Q SEATの反転攻勢には、地下鉄直通そのものではなく、需要の高い列車に設定することが重要です。他社線と直通運転を行う東横線の全列車にQ SEATを連結することは困難としても、利用者に分かりやすい、選びやすい選択肢を用意することから始めなければなりません。
【了】
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx
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