この電車「寝台特急」だったんだぜ…? 凄まじい魔改造の痕跡 ローカル電車への“無理やり転用”なぜ行われたのか

そりゃ露呈するわ 「魔改造」の限界

 加速や走行性能を決めるモーターの歯車比も近郊輸送に使用するために変更していましたが、歯車に101系通勤形電車の廃車発生品を流用したために、加速は良いが高速性能がイマイチ、という車両になってしまいました。

 また短編成化で先頭車が必要になったため、中間車の「先頭車改造」も数多く施工されました。その際につけられた前面が、のっぺりとしたいわゆる「食パン顔」で、流麗かつ重厚な「月光形」先頭車とのギャップも注目されました。

 こうして419系/715系は、3両編成で交流・直流電化区間の双方を走れた419系が北陸エリア、4両編成で交流専用だった715系が九州エリア、そして寒冷地向けの715系1000番台が東北エリアに投入されて活躍しました。

 しかし、徹底して改造コストをかけず行った「魔改造」には、さすがに無理がありました。

 そもそも581系/583系は昼行・夜行兼用の特急車両として酷使され、種車時代から老朽化が進んでいたほか、改造後はドア幅が狭く乗客流動が悪い、窓が小さく車内が暗い、デッドスペースが多い、高速性能が不足、といった様々な問題も露呈していました。

 そのため九州・東北エリアでは1998(平成10)年に全車引退。残った北陸エリアの419系も、2011(平成23)年に運用を終了しました。

 2024年現在、715系のクハ715-1(元クハネ581-8)が、北九州市の九州鉄道記念館で581系/583系時代の塗装をまとって保存されています。車内は715系のままなので、「魔改造」の様子を今でも知ることができます。

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九州鉄道記念館に保存されたクハ715-1。ただし塗色は、クハ581-8時代の寝台特急色に戻されている(monsieur keisuke氏提供)。

 このほか「近郊形」への改造には、急行列車を特急列車に格上げしたことで余剰が発生した「急行形」の床下機器を「近郊形」に載せ替える、特急列車の短編成化で発生した「特急形」のグリーン車を「近郊形」のグリーン車に転用するといったケースなどもありました。

 現在では、このようなその場しのぎの「百鬼夜行」的な変わった車両はあまり見ることができなくなりました。時代の要請で生まれた近郊形電車419系・715系は、これからも伝説の存在であり続けるに違いありません。

【了】

【特急の“成れの果て”】国鉄空前の「魔改造電車」たち(写真で見る)

Writer: 遠藤イヅル

1971年生まれの自動車・鉄道系イラストレーター/ライター。雑誌、WEB媒体で連載を多く持つ。コピックマーカーで描くアナログイラストを得意とする。クルマは商用車や実用車、鉄道ではナローゲージや貨物、通勤電車、路面電車、地方私鉄などを好む。

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