最近聞かない「可変翼機」なぜ衰退した? 翼の角度が変えられる飛行機 そもそもメリットは?
デメリットも多かった可変翼の採用
ところが、いざベトナムで実戦投入されると、敵戦闘機との空戦には苦しみ、空域を制圧する制空戦闘には不向きであることが露呈します。爆撃機としては優れていたF-111ですが、アメリカ空軍はより優れた制空戦闘機としてF-15の開発をスタートさせます。
一方、採用を見送ったアメリカ海軍はF-111の可変翼やミサイル、エンジンなどの技術を転用し、F-14の開発に着手します。なお、可変翼については、F-111では手動で角度を変更していたのに対し、F-14では「CADC(統合飛行制御装置)」を採用することで角度の自動制御が可能となり、優れた飛行性能を発揮できるようになりました。
可変翼が開発された当時は、戦闘機は速度競争の真っ只中にあり、各国はより速く飛べる技術の開発に心血を注いでいたものの、やがて戦術の変化やマッハ2を超えるような超音速が実用性に乏しいことを理由に高速化を追い求めなくなります。その結果、可変翼の特性である高速性と低速性の両立をさせる必要が薄れました。加えて、新型のエンジンやコンピューターによる機体制御が進むと、可変翼を使わずとも運動性能を向上させられるようになったのです。
また可変翼機は、一般的に主翼の根元にある回転軸で主翼の角度を変化させます。この回転軸が主翼の荷重を支えるため重く頑丈に作られています。このことは機体の重量増を招く要因で、しかも構造が大変複雑なためメンテナンスに要する時間も多くなるというデメリットを持っています。加えて、何より1機当たりのコストも増加するほか、形状的にもステルス性が損なわれるため、新たに可変翼の戦闘機が開発されることはありませんでした。
映画『トップガン』で一躍知名度が上がり、艦上戦闘機としてその強烈な存在感でいまだファンの多いF-14「トムキャット」。実戦では湾岸戦争、アフガニスタンやイラク戦争などで活躍した後、2006(平成18)年にアメリカ海軍から完全に退役しました。現在は、基地のゲートガードなどのモニュメントとして余生を送っています。一方、唯一アメリカ以外でF-14を導入したイランでは、2024年現在でも運用されていると言われています。
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Writer: 石津祐介(ライター/写真家)
専門誌を中心に、航空機の取材、撮影を行うライター、写真家。国内外を問わず世界各地の空港やエアショーなど取材。航空機以外にも野鳥、アウトドア、旅行など幅広いジャンルの取材を行っている。
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