鉄道マンが始めた「高速貨物列車ベンチャー」が奇跡の躍進!? “鉄道200年の歴史”を逆手に取った元運転士 イギリス
英国初の高速鉄道物流会社が、躍進を続けています。新幹線の荷物輸送を本格化するJR東日本とは比べものにならないほど小さなベンチャー企業ですが、その勢いは止まりません。その発起人は運転士歴20年の元鉄道マンでした。
英国中の鉄道インフラを知り尽くした運転士ゆえの強み
実は、似たような高速貨物鉄道の構想は過去にもありました。
例えば2021年にはロンドンの主要駅のひとつ、ユーストン駅に試験運転で乗り入れた会社もありましたが、バラミス・レイルよりも一歩先んじていたにもかかわらず、結局は計画を断念して撤退しています。
ライバル社と明暗を分けた理由は、環境にやさしい列車を採用したことにありそうです。リード氏は「様々な会社で電車を運転してきた過去の経歴から、どのような車両が、いつ現役を引退して、どこで放置されているかを熟知していたため」と説明します。
前述の競合他社が試験運転で用いた列車は、排ガスが問題となっているディーゼル車だったのに対して、リード氏は、環境にやさしい旅客用の電車が不要になるという情報をつかみ、それを入手して貨物用に改造したのです。
同社の高速貨物鉄道で使用している車両はイギリス国鉄321形です。その1編成だけでトラックによる運送に比べて年間3000トンのCO2(二酸化炭素)削減につながります。
環境問題に敏感な欧州の企業や投資家からの支持を得られたことにより、競合他社が成しえなかった、英国で「初にして唯一の高速貨物鉄道」という称号を得られたのです。

鉄道200年史の「ひずみ」に着目
リード氏の知識は、列車だけではありません。様々な設備に運転士として出入りするうちに、200年の長きにわたる鉄道史の中で生まれた余剰施設にも目を付けていました。
現在、バーミンガムで利用しているプラットホームは、旧国鉄が小包サービスのために利用していましたが、同サービスが廃止された2001年からあまり使われていませんでした。
また、スコットランドでは英国の郵便事業、ロイヤルメールのために建設された施設を使っています。ロイヤルメールは、鉄道の商業利用が始まった5年後の1830年には列車による郵便輸送を始めましたが、2024年10月に完全撤退しました。スコットランドで使っている施設に加えて、約200年の間に建設された英国全土のロイヤルメールの鉄道施設がすべて不要になったのです。
今後は、そうした施設を利用して事業拡大し、5年後には逆にロイヤルメールの郵便を受注できるまでに成長したいと、リード氏は語ります。
隙間を狙ったスリムな体質を保ちつつ、どこまで事業拡大していけるのか、バラミス・レイルの今後から目が離せません。
Writer: 赤川薫(アーティスト・鉄道ジャーナリスト)
アーティストとして米CNN、英The Guardian、独Deutsche Welle、英BBC Radioなどで紹介・掲載される一方、鉄道ジャーナリストとして日本のみならず英国の鉄道雑誌にも執筆。欧州各国、特に英国の鉄道界に広い人脈を持つ。慶応義塾大学文学部卒業後、ロンドン大学SOAS修士号。
貨物じゃなくて荷物ね