ローカル線「異様なゆっくり運転区間」のナゾ 西日本でやけに多い“徐行を始めた理由”

ローカル線で「異様に速度を落として運行する区間」が、JR西日本で特に多く設定されています。なぜ速度を落とすようになったのでしょうか。JRもやる気がないわけではなく、突き詰めていくと“やむを得ない”実態も見えてきます。

スピードアップは“地元のやる気”次第?

「常時徐行」を解消するにはどうすればよいのか、難しい問題です。

 自分で自動車を運転することを考えれば、見にくい場所や交差点、カーブでスピードを落とすのは、当たり前の操作だとわかります。時速30キロで走るクルマの停止距離は14mと言われています。

 一方、鉄道車両はレールの上を走っているので急には止まれません。2023年の芸備線の事故例だと、運転士は時速25キロで走行中、目標物の20m前で非常ブレーキを操作しましたが、列車は岩に衝突しました。ただ、「常時徐行」をしていれば、ぶつかっても衝撃は小さいし、リスクを最小限にできるので、「安全」のためには仕方ない――。

 JR西日本も、さまざまな対策をしています。芸備線だと、列車巡回が週に1回、徒歩巡回が70日に1回の割合で行われ、線路や斜面などを点検しています。対策可能な場所には、落石防止柵や防護ネットの設置、モルタル吹きつけによる斜面強化、コンクリートで表面を覆う、落石検知器の増設などが行われています。ただ、隣地が民有地で対応しようがないケースもあります。

「常時徐行」は、大赤字路線を延命させるための“荒業”でもあります。芸備線東城~備後落合間の2023年度の輸送密度は20人、備後落合~備後庄原間86人、木次線出雲横田~備後落合間72人……なかなか厳しい状況です。極端な不採算路線の維持管理に莫大な費用を投じるのは難しいうえ、保線の人手不足も深刻です。

 地方議会の会議録で検索していると、JR西日本の徐行運転への不満を見かけます。「やる気がない」ように見えるのでしょう。ならば、関係する県や市町村が数十億円単位でカネを出し合って、国道や県道のように、表面が脆弱な斜面をコンクリートで固めて落石を防ぐことはできないのでしょうか。第三セクター鉄道化、上下分離など様々なスキームもあります。

 ただ、地方議会ではそんな話題になりません。鉄道事業は他人事で、国とJRが悪い。それでは議論は進みません。鉄道を放置している間に、立派な高規格の道路が整備されていきます。

 ローカル線の将来について問題を先送りするのではなく、地域として公共交通機関をどう維持するのか。真剣に考えてほしいと思います。

【標識に注目!】これが「異様なゆっくり運転になる区間」です(写真)

Writer:

1972年奈良県生まれ。大阪市立大学大学院経営学研究科前期博士課程修了。国内全鉄道と海外80ヶ国以上を旅しながら鉄道史や資料調査に没頭する。主な著書に『鉄道未成線を歩く 国鉄編』『同 私鉄編』、『開封!鉄道秘史 未成線の謎』など。

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