ローカル線「異様なゆっくり運転区間」のナゾ 西日本でやけに多い“徐行を始めた理由”
ローカル線で「異様に速度を落として運行する区間」が、JR西日本で特に多く設定されています。なぜ速度を落とすようになったのでしょうか。JRもやる気がないわけではなく、突き詰めていくと“やむを得ない”実態も見えてきます。
「キッカケは去年の事故」
途中、列車は浜原駅(島根県美郷町)で長時間停車をします。運転士さんが気さくに話しかけてくれたので、例の徐行区間について質問しました。

きっかけは前年2004年に三江線で起きた事故だといいます。キハ120が、斜面から落ちてきた岩石と衝突して脱線しました。その後、地元から危険箇所を減速するよう強く要望があったようで(資料では未確認)、時速40キロ以下にスピードを落とす徐行箇所が何十か所も設けられたとのことです。
運転士さんのボヤキ節は続いていましたが、出発時刻も近づいたので車中に戻りました。
帰宅後、気になったので航空・鉄道事故調査委員会(現・運輸安全委員会)のサイトを調べると、事故の報告書を見つけました。2004年6月、川戸駅を出発したキハ120が時速45キロで田津駅に向けて走行中、運転士は曲線区間で80m先の落石を発見し、非常ブレーキを使用しましたが間に合わず、列車は衝突して脱線。幸いにも負傷者はいませんでした。
原因は線路脇の急斜面の表層が風化し、浮き始めた岩石が自らの重さで落下したようです。事故8日前の目視による巡回検査では発見できなかったといいます。
JR西日本は、対策として斜面の点検を行うと共に、現場の落石防護柵を延長し、徐行箇所を線内に63か所設定しました。これが「常時徐行」の始まりとなります。
ローカル線の「斜面対策」は「徐行運転」が基本
実は2004年は、三江線以外にも中国地方のJR西日本線において、因美線で土砂流入、姫新線で倒木に起因する脱線事故が起きています。いずれも線路脇の斜面の表層がもろくなったのが原因で発生したと推測されました。
JR西日本は当時、対策として、乗務員が支障物を発見した場合、安全に列車を停止できる速度で走行する方針を示し、2005年の土木学会で「常時徐行」と紹介しています。これを斜面からの線路支障対策の基本対策と位置づけ、曲線区間や見通しの悪い区間,過去の災害歴や周辺環境などを元に分析して設定しました。
三江線だと、時速30キロ以下の徐行区間が約40km、全線の約4割もありました。浜原~口羽間は鉄道建設公団によって整備された高規格路線で、徐行区間の数が少なかった一方、戦前に開業した江津~浜原間だと、曲線が多くて擁壁が十分に整備されていませんでした。ここは以前から災害に弱い区間で、2006年の水害では1年ほど運休しています。
ただ、徐行区間が多すぎると、鉄道輸送の優位性は失われてしまいます。
三江線江津~石見川本間の所要時間は、2004年7月号の時刻表では最速52分でしたが、同年10月改正で60分、その後もスピードダウンは続き、廃線前には68分となりました。事情がいろいろあるのはわかりますが、乗客にとって所要時間が間延びするのは歓迎したくないところです。
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