アメリカ版新幹線は「死刑宣告」 JR東海ら日本企業も受難 トランプ氏の徹底的な「鉄道いじめ」のナゼ

アメリカのドナルド・トランプ大統領が、旅客鉄道への“塩対応”をあらわにしています。JR東海をはじめ日本企業も複数関わる高速鉄道計画も暗礁に乗り上げ、米鉄道業界は真っ暗なトンネルへと突入。背景には3つの理由があります。

高速鉄道の「死刑宣告」が現実に

 残る1つの理由について、2009~13年に運輸長官を務めたレイモンド・ラフード氏は「共和党は一般的に高速鉄道への投資をあまり信用していない」と指摘します。ラフード氏は雑誌「ニューズウイーク」に対して、トランプ氏が大統領に返り咲けば「高速鉄道の死刑宣告になりかねない」と警告し、予想が的中しました。

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ドナルド・トランプ大統領(画像:ホワイトハウス)

 トランプ政権のショーン・ダフィー運輸長官は2025年4月14日、テキサス新幹線建設計画への補助金は「税金の無駄遣いであり、(支援する)アムトラックの本来の使命である劣悪なサービス改善をおろそかにするものだ」と主張して撤回を表明しました。

 テキサス新幹線計画は地元民間企業のテキサス・セントラル・パートナーズ(TCP)が主体となり、約386km離れたダラスとヒューストンの間に専用軌道を建設。東海道・山陽新幹線と西九州新幹線で使われている車両N700Sをベースとした列車を最高速度約330km/hで走らせ、約1時間半で結びます。日本メーカーの日立製作所と三菱重工業、NEC、東芝インフラシステムズも支援を表明しています。

 筆者が勤務先のニューヨーク支局駐在中の2015年12月にインタビューをしたTCPの当時CEOだったティム・キース氏は「21年に営業運転を始めたい」と意欲を示していました。しかし、300億ドル(4兆2900億円)を超えるとされる資金調達で苦戦し、用地買収でも土地所有者に訴訟を起こされるなど険しい道のりが続けており、いまだ着工できないままです。

 また、2024年5月にテキサス新幹線担当だったアムトラックのアンディ・バイフォード上席副社長にインタビューした際、「トランプ氏が大統領選で勝ったら逆風になるのではないか」と質問しました。バイフォード氏は「雇用を創出し、経済成長をもたらす強力な事業を創り出せるのならば、いかなる政治家も支持する」との持論を展開しましたが、筆者が想定した通りの結果になりました。

 補助金撤回後にバイフォード氏はテキサス新幹線担当を外れ、アムトラックなどが発着するニューヨーク中心部マンハッタンのペンシルベニア駅の大規模改修を担当することが発表されました。頼みの綱だったアムトラックも手を引いたことで、テキサス新幹線計画は袋小路に迷い込みました。

“塩対応”のトランプ政権下で、アメリカの旅客鉄道は少なくともあと3年半余りは出口の見えないトンネルで暗中模索することを迫られそうです。イプソムとロイター通信が2025年5月16―18日に実施した世論調査でトランプ氏の支持率は42%と2期目で最低を記録するなど、トランプ政権と共和党に愛想を尽かすアメリカ国民も広がっています。

 このため2028年の次回大統領選では民主党候補が勝つ可能性を秘めており、高速鉄道に理解があるカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事が選ばれるとの予想もあります。実現すれば高速鉄道計画が息を吹き返す可能性がありますが、テキサス新幹線計画がそれまで持ちこたえられるのかどうかも視界不良の瀬戸際にあります。

【ここまで具体的だったのか…!】これが「アメリカを走るN700S」です(画像)

Writer:

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学フランス語学科卒、共同通信社に入社。ニューヨーク支局特派員、ワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。「乗りもの」ならば国内外のあらゆるものに関心を持つ。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。

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コメント

2件のコメント

  1. 日本政府が円借款で金出せばいい

    C国に円借款で投資するくらいなら、

    米国に投資してもいいのでは…

    • 円借款は借金だから、トランプが受け入れますかね。