「こんなの見たことない!」と猛反対!? 通勤電車を改造した「走るホテル」の神髄“ふしぎな形の個室”誕生秘話 「面白い」でOKに
登場から5年を迎えるJR西日本の人気列車「WEST EXPRESS銀河」。最上級クラスの個室「プレミアルーム」には、デザイナーが「こんなのは見たこともない」と反対されながらも実現させた「強いこだわり」がありました。
三角定規型の個室が生む「一石三鳥」効果
三角定規のような形の部屋のため、ベッドは足元の幅が絞られた台形になります。高校生の息子と2人で乗った筆者は狭いのではないかと危惧していましたが、十分な広さでした。ベッドが高い位置にあるため車窓を眺めやすいのに加え、下には大きな荷物を収納でき、しかも床下から聞こえてくる音も軽減されるという“一石三鳥”でした。

先頭車両の6号車にある「プレミアルーム」がぜいたくな空間なのは、この車両の夜行の定員が9人、昼行でも13人にとどまることが如実に示しています。川西さんは「6両編成で定員100名程度あれば良いという条件だったため、なんとかなる」と判断して「プレミアルーム」に広々とした空間を割り当てたそうです。「プレミアルーム」が6号車、「ファーストシート」が反対側の先頭車の1号車とグリーン車が先頭車にあるのは「床下の静粛性を優先したためです」と教えてくれました。
来島氏の期待通り「様々な座席や設備」を用意した「ウエストエクスプレス銀河」ですが、中には“幻”に終わった設備もあります。それは「食堂車」です。4号車のフリースペース「遊星」の壁には主に国鉄時代に登場した特急形車両や電気機関車、客車などの鉄道車両のイラストが描かれており、これが「東海道・山陽新幹線で走っていた100系の(2階建て車両の2階にあった)食堂車の壁にあった図面のオマージュ」(川西さん)なのは一目瞭然です。
「ウエストエクスプレス銀河」に食堂車を設ける構想があったと聞き、筆者は大阪市にあった旧交通科学博物館でのイベントを取材後、来島氏に誘っていただいて展示車両のナシ20形食堂車で一緒に弁当を味わったのを思い出しました。筆者はその時に「食堂車だとよりおいしく感じますね」とお話しし、来島氏もうなずいてくださいました。
車体色が似た「ウエストエクスプレス銀河」ならばナシ20形のような空間が再現された可能性もあり、「食堂車の夢」が実現しなかったことには一抹の寂しさがあります。
一方で杓子定規にならずに設計し、三角定規のような形の個室を設けるなど遊び心がある列車に仕上がったことが、「ウエストエクスプレス銀河」の根強い人気につながっているのかもしれません。
Writer: 大塚圭一郎(共同通信社経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員)
1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学フランス語学科卒、共同通信社に入社。ニューヨーク支局特派員、ワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。「乗りもの」ならば国内外のあらゆるものに関心を持つ。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。
歯車比が高めだから騒音がすると思いますがその音がノスタルジーで気持ち良い人もいます!