自衛隊機と中国軍機の異常接近「最悪のケース」になる可能性は?「国際政治とはラップバトル」その意味
中国軍機が自衛隊機に異常接近するケースが相次いで起きました。ただ、中国の主張を見ると、今後このような行動が常態化し、緊張がさらに高まる恐れがあります。日本はどうすればよいのでしょうか。
24年前には米軍機と中国軍機で空中接触したことも
しかし、中国の「現状維持」に向けた措置は、力による現状変更の行為とは違う形で危険度が高いと言えます。言い換えれば、防空識別圏における監視のような通常措置でも、今回のような危険極まりない行動が「標準手順」になる可能性があるということです。

日本と韓国の防空識別圏は、中国が設けているものと重複している部分が多々あることから、互いの警戒監視措置での飛行が相手にとっては侵入になります。このため、中国は今後も自衛隊や韓国軍機に対し、今回と同じような行動を取ってくるのは間違いないでしょう。
たとえ通常の監視飛行であったとしても、危険極まりない方法で飛び回っていることになり、結果、我が国周辺における「グレーゾーン事態」の拡大・多様化と、緊張の「高止まり」につながります。
特に懸念すべきなのは、誤認・判断ミスやコミュニケーションミスなどによる偶発的な衝突ですが、これらは、焦燥的な状況で発生し、エスカレートすることが多いため、制御不能な形で増進した結果、最悪の場合、全面戦争に至ってしまう恐れも孕んでいます。
とうぜん、中国軍や準軍組織(海警局や武装警察)の戦闘能力と作戦能力が向上していることも忘れてはなりません。これは単に中国がより強大な軍事力を背景に行動を取れるようになるというだけでなく、我が国としてもこれらへの抑止と防衛措置が難しくなることを意味します。
中国の態勢と動向に対して、日本は米韓台比豪といった近隣諸国のみならず、イギリスやカナダ、インドなど他国と連携を強化しつつ防衛力の向上を図らなければなりません。ただ、そうしたことと並行して、未然に衝突を防ぐためにも中国と防空識別圏に関するルールの策定を進め、場合によっては空域について調整することも不可欠です。
今から24年前の2001年4月には、南シナ海上空でアメリカ海軍のEP-3E電子偵察機と中国軍のJ-8III戦闘機が空中衝突した「海南島事件」も起きています。そのようなことを起こさないためにも、主張はしつつ一定のルールを作ることが必要でしょう。
Writer: 山口亮(国防・安全保障専門家)
長野県佐久市出身。東京国際大学国際戦略研究所准教授。アトランティックカウンシル上席研究フェロー、パシフィックフォーラムスコウクロフト戦略安全保障センター上席客員フェローなどを兼任。幼少期からイギリス、オーストラリア、韓国、シンガポール、マレーシア、インドネシア、米国などで過ごし、防衛政策・戦略・計画、安全保障、交通政策を専門とする。主著に『Defense Planning and Readiness of North Korea: Armed to Rule』(Routledge)、『2030年の戦争』(日経BP)など。Instagram/X: @tigerrhy
コメント