「高くても」国産EVバス、京王が大量導入へ 中国製から“路線転換” バス会社の本音を聞いた
京王バスが路線バス車両に国産初の大型電気自動車(EV)バスを大量導入します。現在は中国製の大型EVバスを抱えていますが、国産に切り替えるのには納得の理由がありました。
「高くても国産がいい」 でもいまは「健全な状態ではない」
それでも京王バスが「K8」に代わって「エルガEV」の導入を決めたのには、納得できる3つの大きな理由があります。

1つは国と東京都のEVバスの補助金を活用すると、実質価格では「K8」とは大差がないためです。
走行中に排ガスを出さないEVバスの普及を図るため、国と都は基準となるディーゼルエンジンバスとの差額を負担しています。バス運行事業者としては実質価格が同程度であれば、性能面で「K8」を上回り、国内生産のため日本経済および雇用に大きく貢献する「エルガEV」を選ぶのは自然です。
2つ目は国産バスの品質が高く評価されているためです。筆者の取材に応じた京王バスの田井豊典取締役安全技術部長は「国産EVバスはモーター部分を含めてきれいに造ってある」とする一方、「海外製だと見た目はバスに仕上がっていても、料金箱や案内用液晶パネルを取り付ける際に配線を通したり、設置したりすることを想定しないような造りになっていることがある」と指摘しました。
残る1つは、故障時のアフターケアを含めた信頼性があるためです。田井氏は「長く使う中で故障が一切発生しないこともおそらくなく、部品交換は絶対発生するため、その時に支援が得られるかというアフターケアの体制は気になる」と話し、「エルガEV」を販売するいすゞは路線バスを長年手がけてきた信頼感があるとの認識を示しました。
京王バスは将来的なカーボンニュートラル化を視野に入れ、保有する路線バス全体の2割に当たる180台をゼロエミッション車にする「内部目標」を策定しました。脱炭素化を進める中で、国と東京都の補助金を活用すればEVバスのコストパフォーマンスが高いことが背景にあります。
田井氏は、導入費用と運行コストを含めたライフサイクルコストをみると「EVバスが計算上は一番安く、あとはハイブリッドバス、ディーゼルバス、燃料電池バスの順番となる」と説明します。燃料電池バスの購入にも国と東京都の手厚い補助金が適用されるものの、燃料の水素の価格高騰が運行コストを押し上げるためです。
一方、補助金がなかった場合のライフサイクルコストは「ディーゼルバス、続いてハイブリッドとなり、すごい差があってEVバス、燃料電池バスの順番になる」と教えてくれました。現状では「EVバス、燃料電池バスともに補助金なしにはライフサイクルコストでの採算は取れない」と断言します。
田井氏は「EVバスと燃料電池バスの導入が補助金頼みなのは「事業として健全な状態とは言えない」とし、「ゼロエミッションバス市場全体の技術革新と価格競争が進むことを強く期待しています」と訴えています。
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