「日本は原子力潜水艦を持てるの?」→「激ムズです!」 国際法×自衛隊の専門家が語る“決定的な理由”とは?

昨今、日本では潜水艦の次世代動力を研究するにあたり、原子力推進も選択肢として含むべき、という論調が挙がっています。実際、オーストラリアは原潜の導入を決め、韓国でも検討が始まっています。日本も可能なのでしょうか。

日本国内の規制はどうクリアする? 課題は法律の解釈

 では、翻って日本国内の原子力利用に関する規制はどうなっているのでしょうか。これに関しては、日本における原子力の研究開発や利用推進を目指して1955(昭和30)年に成立した、原子力基本法の第2条1項の規定が重要となります。

「原子力利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする」

 この「原子力利用は、平和の目的に限り」という一文について、1965(昭和40)年4月14日に国会でその解釈を問われた愛知揆一科学技術庁長官(当時)は、政府見解として次のように答弁しています。

「原子力基本法第2条には、『原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限り、』云々と規定されており、わが国における原子力の利用が平和の目的に限られていることは明らかであります。したがって、自衛隊が殺傷力ないし破壊力として原子力を用いるいわゆる核兵器を保持することは、同法の認めないところであります。また、原子力が殺傷力ないし破壊力としてではなく、自衛艦の推進力として使用されることも、船舶の推進力としての原子力利用が一般化していない現状においては、同じく認められないと考えられます」(愛知揆一科学技術庁長官答弁『第48回国会 衆議院 科学技術振興特別対策委員会議録』第15号、8頁(昭和40年4月14日))

 この答弁を一見すると、潜水艦を含む自衛艦の推進力として原子力を利用することは、原子力基本法上は認められないと整理されているように見えます。ただし、これについては「船舶の推進力としての原子力利用が一般化していない現状においては」という限定が付されているのがポイントです。

 では、各国で原子力潜水艦が運用されている現在の状況で、この限定は解除されたといえるのでしょうか。

 重要なのは、ここでいう「一般化」の意味です。じつは、日本政府の理解は「原子力で推進する商船が一般化した場合」というものであると、1980(昭和55)年に国会で説明されています。

「(原子力利用が)一般化するという状況は、原子力商船が一般化するという状況であるというふうに御理解いただきたいと存じます」(石渡鷹雄科学技術庁原子力局長答弁『第93回国会 衆議院 科学技術委員会議録』第3号、8頁(昭和55年10月23日))

 これら一連の答弁は現在でも踏襲されているので、仮に日本が本当に原子力潜水艦を保有しようとする場合には、この原子力基本法の解釈を変更する必要があります。そのうえで、IAEAとの取り決めを改めて結び、核拡散防止に関する仕組みを新たに設けることも必要です。

 つまり、原子力潜水艦の保有は一朝一夕に実現できるものではない、と断言できます。

【完成イメージ!】これが建造予定の「最新の国産潜水艦」の構造です(画像)

Writer:

軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。

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