「鉄道会社が作る街」の限界 「一方的な供給」から「みんなでやろう」へ急転換 再生あの手この手!
日本の鉄道会社が115年にわたり続けてきた沿線開発のビジネスモデルが、人口減少などを背景に大きな変革を迫られています。
組み合わせは無限 多様な展開例
この連携・共創型沿線まちづくりは、多様な組み合わせで展開されています。
駅を「全く別の用途」に使う
群馬県の山間にある上越線の土合駅(JR東日本)では、スタートアップ企業が駅を喫茶店にし、隣接地をグランピング場として運営しています。JR西日本は姫新線 太市駅(兵庫県姫路市)の駅舎をシンプル化し、生み出した余地を地元企業が活用。これを鉄道側の待合室としても解放しています。鉄道と地域が資産を共有する形で、駅を「まちに開かれた場所」へ転換しました。
うちの社宅を使って!
東武鉄道の「ミノリテラス草加」はもともと同社の社宅でした。これを草加市のリノベーションスクールの教材に使い、賃貸住宅だけでなく店舗、畑を整備しました。「寝に帰るだけのまち」からの脱却を目指すとしています。
団地が広がっていた駅前などを大規模に再開発した例が、京阪枚方市駅です。人口減や若年層減少の社会課題に対し、20分以内で生活に必要な施設にアクセスできる「20分都市」をコンセプトに再開発を進め、住宅、オフィス、商業施設、ホテルなどを集約。賃貸レジデンスへ若年ファミリー層が流入し、駅利用も5000人増えたそうです。
難しい場所に着目
一般的に開発が難しい場所が駅間の高架下です。これを魅力的な賑わい空間にするため、JR東日本グループのJR中央線コミュニティデザインは、ホップ栽培と地ビール醸造などを通じて地域との接点を拡げています。
東急が町田市と共同で推進した南町田グランベリーパークは、道路で分断されていた駅・鶴間公園・商業施設を、土地区画整理事業と歩行者道の整備により一体化させました。公園を中心に遊びや滞在が楽しめる場や、企業との協業で学びの場も作り、都市景観大賞や地球環境大賞など多数の賞を受賞しています。
定期券も還元!
JR東海は安城駅や富士駅で、同社の資産と公共用地を一体利用し、駅周辺への都市機能を集約化する計画を進めます。また、UR賃貸住宅の新規入居者に対し定期券購入額の20%還元キャンペーンを実施するなど、団地再生と公共交通利用促進も進めています。
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公平性が重要な自治体、収益に向け戦略的に進める鉄道、豊かな暮らしを目指す住民、それぞれの想いと立場と価値観は異なり、多様な主体の連携は簡単ではありません。また、大規模住宅団地のオールドタウン化など、大きな問題も残されています。地面に貼り付いている鉄道も自治体も地域からは逃げ出せず、共に手を組み地域を良くしていくしか道はありません。
(本稿は、鉄道技術展 2025 11月26日「 TAKANAWA GATEWAY CITYを起点とした新たな価値創造」~100年先の心豊かなくらしのための実験場~、27日「活力ある都市・まちづくりと鉄道・駅の役割」、12月1日開催 「沿線まちづくりシンポジウム」の講演内容などから構成しました)
Writer: 山田和昭(日本鉄道マーケティング代表、元若桜鉄道社長)
1987年早大理工卒。若桜鉄道の公募社長として経営再建に取り組んだほか、近江鉄道の上下分離の推進、由利高原鉄道、定期航路 津エアポートラインに携わる。現在、日本鉄道マーケティング代表として鉄道の再生支援・講演・執筆、物流改革等を行う。





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