「新型戦車求む!」 欧州の戦車大国がタッグ組んだ“新型戦車の共同開発”…なのに足並みそろわないワケ 「ウチの本音は…」

世界各国で、需要が高まってきている兵器の一つに戦車が挙げられます。そんな中、欧州ではドイツとフランスが新型戦車「NGCS」の共同開発を進めていますが、どうやら両国の歩調が合っていないとか。その理由はどこにあるのでしょうか。

フランス「このままじゃまずい」! 一方のドイツは「勝ち組」って?

 新型戦車 の設計開発となると、実に35年ものブランクがあります。このままでは、戦車を設計・製造する技術そのものが失われる「ロストテクノロジー」になる可能性が現実味を帯びています。イギリスが新型装甲車「エイジャックス」の開発で苦しんでいますが、工業先進国であっても一度失われた重装軌車両の製造能力を取り戻すのは容易ではありません。

Large 20251228 01
ドイツのレオパルト2最新バージョンA8。需要に供給が追い付かず、価格も中古のF-16戦闘機より高騰しているとも言われる(画像:KMW)

 フランスはMGCSが完成するまでの間、ルクレールを近代化改修した「ルクレールXLR」で戦力をつなぐ方針です。これは単なる延命ではなく、デジタル化やネットワーク対応を含む近代戦仕様への改修です。2024年12月、フランス装備総局(DGA)は、2030年までに160両、2035年までに残り40両の改修を完了させると決定しました。

 ただし新造ではないため、生産ラインは再稼働せず、戦車のロストテクノロジー化を防ぐ根本的な問題解決とはいえません。国防費は増額されていますが、原子力潜水艦や次世代戦闘機といった空海軍の大型事業との予算配分競争も厳しいのですが、フランスがMGCSに強い期待を寄せるのは、国産戦車技術を未来につなぐために他なりません。

 一方のドイツは、まったく異なる状況にあります。主力戦車「レオパルト2」シリーズは欧州各国で引く手あまたで、最新型の「レオパルト2A8」も好調な受注を獲得しています。改修・新造ラインはフル稼働を続けており、事実上、現在の欧州で唯一の戦車供給国となっています。戦車産業という点では、ドイツは完全に「勝ち組」です。

 メーカーのラインメタルはMGCSに参加しつつも、独自の戦車開発を進めています。将来的な「レオパルト3」構想もあり、MGCSが遅れても当面困る状況ではありません。それでもドイツがMGCSを続ける理由は、戦車そのものよりも

・将来技術への先行投資

・欧州防衛産業基盤の維持

・フランスとの政治的・外交的協調を示す

――といった長期的視点にあります。

 MGCSは、ドイツにとって「今すぐ必要な戦車」ではなく、アメリカやロシアを見据えた技術と政治を統合する戦略プロジェクトと位置付けられているのです。最近ではアジアから韓国という新しい競合相手も参入してきています。

 戦車は「ディナージャケット」のような存在です。日常的に着るものではありませんが、必要な場面で代わりはありません。フランスにとってMGCSは、失われかねない戦車製造技術を救うための「最後の一着」です。一方のドイツにとっては、当面困らないものの、将来に備えて用意しておく「上質な勝負服」といえるでしょう。

【独仏の良いとこ取りか…?】2018年に公開された「キメラ戦車」を写真で(画像)

Writer:

1975(昭和50)年に創刊した、50年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

最新記事

コメント