4tの「ドラム缶爆弾」が水面を跳ねる!?「勝利の爆撃機」が挑んだ命懸けの特殊作戦 結果は“未曽有の大洪水”
1941年1月9日に初飛行した英爆撃機「ランカスター」。その名を歴史に刻んだのが、特殊爆弾「アップキープ」を用いたダム破壊作戦です。強固な建築物を破壊するための特殊戦術と、成功の裏にあった壮絶な代償に迫ります。
1300人が犠牲に…、ダム決壊がもたらした未曾有の大洪水
問題は、それを目標まで運んで投下できる爆撃機でした。「アップキープ」1発の重量は4195kg。このような大重量の爆弾を搭載でき、投下する前には毎分500回転させるための逆回転装置も備え、かつ低空飛行で投下可能な能力が求められます。
こうしたハードルをクリアできる機体として、白羽の矢が立ったのが「ランカスター」でした。
機種が決まると、今度は任務に合わせた改修です。具体的には、「アップキープ」1発と逆回転装置、それに機首と機尾に角度を付けて下向きに設置したライトの光輪が交わることで、「アップキープ」投下に適正な飛行高度の18mを知らせる特殊高度表示装置の搭載が行われ、そのような特殊改造型は、「タイプ464臨時改造ランカスターB.Mk.III(スペシャル)」と称されました。
また、この特殊な爆撃任務を遂行するため、24歳の優秀な爆撃機パイロット、ガイ・ギブソン中佐を隊長とする第617中隊が特別に編成されました。
かくしてダム破壊作戦は「チャスタイズ」と命名され、1943年5月17日に実施されます。19機が3つの梯団に分かれて出撃し、メーネ、エーデルの両ダムの破壊に成功。死者約1300名、死亡家畜約6500頭、流失農耕地3000ヘクタール、流失橋梁25、大破橋梁21、操業停止軍需工場125、流域の被害範囲約80kmという大損害をドイツ側に与えました。一方、その代償として第617中隊は8機を失い、クルー56名中、53名が戦死しています。
作戦成功後の5月27日、イギリス国王ジョージ6世夫妻が第617中隊を慰労訪問しました。その際、決壊したダムの絵にルイ15世の言葉「Apres moi,le deluge(大洪水よ、我に続け)」が書き添えられた同中隊の部隊マークが制定されています。
こうした特殊作戦も実施したことで、今も「ランカスター」はイギリス国民から「勝利の爆撃機」と呼ばれています。加えて同空軍には、飛行可能な状態の機体が2026年現在も残されており、戦勝記念日などにはメモリアルフライトを実施しています。
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。





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