昔の「ライダーの儀式」なぜ消えた? オートバイを味気なくした“真犯人”とは いまや「押しがけ」も無理に!

昔のバイクで定番だった、エンジン始動時の"キックの儀式"。最近の新車ではキックペダル自体が見られなくなりましたが、その理由はなんなのでしょうか。

「足の力」より「電気信号」が主役になった理由

 2006年から2008年にかけて、いわゆる平成18年排出ガス規制が新型車から継続生産車まで段階的に適用されました。この規制に伴って、バイクの燃料供給はキャブレターから「フューエル・インジェクション(FI)」へ一気に置き換わりました。このパーツは一般的に「FI」と呼ばれる、電子制御の燃料噴射装置です。

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キックスターターでバイクのエンジンを始動するライダー(画像:PIXTA)

 このFI化こそが、キックペダルの運命を決定づけることになったと言えるでしょう。

 FIの仕組みは、キャブレターとはまったく違います。タンク内の電動「燃料ポンプ」が、まずガソリンを高圧で押し出します。あわせてエンジンの状態を読み取る各種センサーの情報を「ECU」と呼ばれるコンピューターが瞬時に演算します。この結果をもとに、最適な量と時間で「インジェクター」から燃料を噴射するのです。この一連の流れは、すべて電気で動いています。

 つまり、いくらキックでクランクを力強く回しても、電気が通っていなければ燃料ポンプもECUもインジェクターもいっさい働かないのです。その結果、これまでキックペダルでできていたエンジンへの燃料供給も行えません。これが、インジェクション車では「押しがけ」での始動が極めて難しい理由です。

 さらにECUは、バッテリー電圧が一定以下に下がると、回路保護のためエンジンの作動そのものを止めてしまいます。こうなると「足の力」がどんなに強くても、お手上げの状態です。つまり、「電気信号」が整っていないとエンジンが動かない時代になったのです。

 この仕様になってしまった以上、キックペダルは緊急時の保険としての役割すら果たせません。搭載するとバイクの重量増や設置スペースを取ってしまい、搭載のためにコストも発生する。そういった事情を考えれば、メーカーがこのパーツを省略していくのは自然な流れでした。

 その象徴ともいえるのが、ヤマハの「SR400」です。

 このバイクは1978年のデビュー以来、頑なにキック始動のみを貫いた稀有なモデルです。2008年にキャブレター式の最終モデルで終わるかと思いきや、2年後の2010年にFI(フューエルインジェクション)を搭載し、再び復活しました。限られた車体スペースに燃料ポンプなどの補機類を収めながらも、キックペダルの機構を残したのです。そのこだわりは“執念”と呼べるほどでした。

 ですが、そのSR400も2021年9月に生産の終了が発表され、43年の歴史に幕を下ろしました。2022年11月より施行される「二輪車令和2年排出ガス規制」への適合が困難で、かつABS義務化への対応も難しかったためと言われています。「キック始動のみ」を貫く公道スポーツバイクとしての最後の一台は、ここで姿を消しました。

 いまも一部のオフロード車や原付スクーターにはキックペダルが残っていますが、それは万一のバッテリー上がり時の保険という性格が強いといえるでしょう。

 昔のライダーが汗を流して踏み下ろしていたあのキックペダル。それが消えた背景には、メカが「人の力で動かすもの」から「電気が司るもの」へと進化した、バイクの大きな転換点があったのです。

【画像】これが「日本最後のキックスターター搭載バイク」です

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