「銀座唯一の踏切」が物語る築地の歴史 特急貨物列車が行き交った東京市場線

再び注目される鉄道生鮮品輸送

 トラックよりも速く、半分程度の運賃で輸送できた鮮魚特急貨物列車でしたが、その活躍は長くは続きませんでした。冷凍技術が向上し、近海ものが減って遠洋漁業などの冷凍魚が増えた結果、鉄道輸送がニーズに合わなくなったのです。

 東京市場駅は線路が1本しかなく、到着したらすぐにすべての積み荷を降ろして次の列車に線路を譲らなくてはなりません。しかし冷凍魚は深夜にホームへ降ろされると、朝には鮮度が落ちてしまいます。また、冷凍魚はすぐに競りにかけず、しばらく冷凍倉庫に入れるケースもあり、鉄道はこうした細かいニーズへの対応が苦手でした。巨大な24トン貨車で鮮魚を運ぶには多数の業者がまとまって発送する必要がありましたが、これも時代に合わなくなります。70年代、鮮魚輸送は鉄道からトラックへ急速に移行していきました。

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近年、外国人が激増した築地場外市場(2018年5月、栗原 景撮影)。

 残った鉄道輸送も、小ロットで発送でき積み替えも容易なコンテナ輸送に取って代わられます。1984(昭和59)年、合理化によって東京市場駅が汐留貨物駅の構内扱いとなり、国鉄分割民営化を控えた1986(昭和61)年には冷蔵貨車が全廃。東京市場線と浜離宮前踏切も廃止されました。浜離宮前踏切は築地市場関係者や中央区教育委員会などの働きかけによって警報器が保存され、現在に至っています。

 一度は衰退した鉄道鮮魚輸送ですが、新たな取り組みも生まれています。JR貨物は、バッテリーによる保冷システムを備え、食材を凍らせることなく長期にわたって鮮度を保つ新型保冷コンテナを開発。2018年6月から福岡~東京貨物ターミナル間と札幌~東京貨物ターミナル間で定期貨物列車を運行する予定です。空輸よりも安く、トラックよりも少ない人員で大量に輸送でき、環境にも優しい鉄道貨物が、改めて注目されています。

 築地市場が閉鎖されると、水産仲卸売場に残る旧東京市場駅の施設も姿を消すことになります。浜離宮前踏切は、国鉄と築地市場の歴史を伝える貴重な遺構なのです。

【了】

※一部内容を修正しました(6月10日16時53分)

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