陸自の装輪装甲車(改)はなぜ開発中止に至ったのか 考えうる理由と代案実現への課題

クリアできなかった問題とその要因とは

 1996(平成8)年に陸上自衛隊の制式装備となった「96式装輪装甲車」は、道路交通法で定められた2.5mの車幅制限をクリアし、また敵から発見されにくくするために車高を低くしたことから車内のスペースが小さく、さらに日本国内での運用を想定して開発されたため、地雷や対テロ戦争で使用される、砲弾などに起爆装置を取り付けたIED(即席爆発装置)など、車体の下からの攻撃に対する防御力が低いという難点があります。

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陸上自衛隊の「96式装輪装甲車」(画像:陸上自衛隊)。

 陸上自衛隊は「装輪装甲車(改)」の開発にあたって、大きな車内スペースと、高い防御力の確保を優先する方針を打ち出し、開発が開始された2014年度予算案の資料のイメージイラストでは、ドイツとオランダが共同開発した装輪装甲車「ボクサー」のような、ずんぐりとした力強いフォルムの車輌として描かれていました。しかし2017年1月10日に防衛装備庁がホームページで公開した「装輪装甲車(改)」の試作車は、全長が長く車高も高い、イメージイラストとはまったく異なるフォルムの車輌でした。

「装輪装甲車(改)」の試作車がこのようなフォルムになった理由はふたつあります。ひとつは前にも述べた道路交通法の車幅制限で、車幅制限と陸上自衛隊が求める大きな車内スペースを充たすためには車体の全長を長く、車高を高くするしかなかったのでしょうが、車高を高くしたことにより不整地の踏破性能が低くなってしまったようです。

 もうひとつの理由は予算不足にあります。「装輪装甲車(改)」の総開発費は50億円以下と、外国の装輪装甲車に比べて低く抑えられています。このため開発・試作担当社は、同社が陸上自衛隊向けに開発した「NBC偵察車」の技術の流用を余儀なくされました。

 核兵器や生物・化学兵器が使用された環境下での偵察に使用される「NBC偵察車」は、走行中に放射線や生物・化学兵器の分析を行なうための精密機器を損傷しないよう、舗装された道路での安定性に重きが置かれており、開発時に不整地踏破性能は重視されませんでした。このため「NBC偵察車」の技術を流用した「装輪装甲車(改)」も、不整地踏破能力の低い車輌とならざるを得なかったと考えられます。

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コメント

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2件のコメント

  1. 道交法のおかげで陸自隊員が危険に晒されるのは、よろしくないですよね。

  2. 車幅収まんないから開発中止、開発費パア。アメリカ軍の車輌は車幅制限の適用外。\(^o^)/