日本のど真ん中、東海・北陸の高速バス事情 外国人が押し寄せる山間部 海沿い路線も変化

飛騨地方が外国人に人気 足を担う高速バス

 1990年代後半以降、高速バスが大きく発展したのが、太平洋側と日本海側を結ぶ東海北陸道の沿線、特に岐阜県の飛騨地方です。

 東海北陸道は、1986(昭和61)年から順次開通し、2008(平成20)年に全通した、比較的新しい高速道路です。その間、1997(平成9)年には岐阜県高山市と長野県松本市を結ぶ安房峠道路も開通し、飛騨地方は首都圏との行き来も容易になり、中心都市である高山を拠点として翌年には東京、2000(平成12)年には名古屋、大阪へ高速バス網が築かれました。飛騨地方は鉄道が便利とは言えない地域ですので、高速バスは「地域の人の都市への足」としてシェアを確保しました。

 さらに、前述の通り2008(平成20)年に東海北陸道が全通すると、名古屋~富山線が増便されたほか、加越能バスの高岡・氷見~名古屋線が開業するとともに、貸切バス事業者であったイルカ交通も小矢部・高岡~名古屋線に新規参入し、競合しながらともに増便を重ねています。

 近年、この地域には大きな変化が起こっています。それは、FIT(Foreign Independent Tour)すなわち海外からの個人観光客の利用急増です。

 国が唱導する広域観光ルート「昇龍道」(石川県の能登半島を頭に、空へ昇る龍に見立てた名称)のメインルートといえる、中部国際空港から名古屋、郡上八幡、高山、白川郷、金沢を結ぶコースは、日本らしさが残る古い街々を周遊できることからFITに大変人気です。また、東京から松本、高山を経て北陸へ向かうコースも、「三っ星日本アルプスライン」の名で京王などのバス事業者が積極的にアピールしています。その結節点に当たる高山のバスセンターや、2016年にオープンした白川郷バスターミナル(岐阜県白川村)は、多様な国々からの観光客であふれ、濃飛バスなどが運行する高山~白川郷線は30分から60分間隔と高頻度ながら、1便あたり5号車、6号車と続行便が設定されることもあります。

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高山濃飛バスセンター。続行便も次々やってくる(2016年10月、成定竜一撮影)。

 飛騨地方においては、高速バスや路線バスが観光客誘致の大きな役割を果たしていますが、外国人客に限らず個人観光客のさらなる増加を図るには、バスを乗り継いで周遊できる「観光回廊(コリドー)」の形成が欠かせません。このため近年、高山からは富士五湖(山梨県)や扇沢(立山黒部アルペンルートの長野県側玄関口)、妻籠・馬籠(長野県と岐阜県、ともに古い町並みが残る宿場町)など、離れた観光地を結ぶ路線が続々と開設されています。

 国内観光客、訪日観光客いずれも、旅行会社のバスツアーでは飽き足らなくなっており、個人個人の興味関心に基づくオーダーメイドの旅行へのニーズが高まっています。温泉旅館や観光集客施設、観光地の集客戦略などを担うDMO(Destination Management Organization)といった、ツーリズム産業を構成する多くの関係者を巻きこみ、高速バスを活用した新しい旅行スタイルの定着が期待されています。

【了】

※一部修正しました(8月19日7時30分)

【画像】訪日客が高速バスで周遊する観光ルート「昇龍道」とは?

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Writer: 成定竜一(高速バスマーケティング研究所代表)

1972年兵庫県生まれ。早大商卒。楽天バスサービス取締役などを経て2011年、高速バスマーケティング研究所設立。全国のバス会社にコンサルティングを実施。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員など歴任。新聞、テレビなどでコメント多数。

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コメント

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1件のコメント

  1. 静岡~御前崎線(現在は静岡~相良線)は高速経由の単なる一般路線ですから、
    静岡県からは一時期高速バスはほぼ絶滅したと言ってしまっても過言でないのでは?