陸自が「対艦」攻撃能力アピールのワケ ルーツは冷戦時代 改めて内外に誇示の背景は?

実際どう撃破する? 「総火演」に見るその手順

 このように陸上自衛隊が南西諸島への地対艦ミサイル配備を進める背景には、近年、海洋進出を強める中国の存在があります。2019年現在、中国は国産空母やミサイル駆逐艦など戦闘艦艇を急ピッチで整備していて、もし台湾や南西諸島をめぐって有事が発生すれば、中国はこうした艦艇を東シナ海から太平洋側に進出させ、海上自衛隊やアメリカ海軍の艦艇による介入を阻止しようとすることが考えられます。そこで、中国海軍の艦艇による動向を抑え込むために、南西諸島に陸上自衛隊の地対艦ミサイルを配備し、東シナ海と太平洋の間に「見えない壁」を築こうとしているのです。

 実際のところ、陸上自衛隊の地対艦ミサイル部隊はどのように敵艦艇を撃退するのでしょうか、今回の「総火演」で展示された内容から、一連の流れが確認できます。

 まず、洋上を航行する敵艦艇を、海上自衛隊の哨戒機や護衛艦、航空自衛隊のE-767早期警戒管制機(AWACS)、陸上自衛隊の各種センサーにより捕捉します。これらの目標情報は、陸上自衛隊の「火力戦闘指揮統制システム(FCCS、フックス)」に集約整理され、そこから12式地対艦誘導弾に目標情報が送られます。これをもとに、12式が敵艦艇を攻撃し、撃破します。

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アメリカ陸軍が運用する地対艦ミサイルNSM。2018年のリムパック演習にて(画像:アメリカ陸軍)。

 今回の「総火演」では、自衛隊のみによる対艦攻撃が実演されましたが、将来的に12式地対艦誘導弾は、アメリカ海軍の艦艇や航空機ともデータリンクにより連接される予定で、より広大な海域の目標情報を得られるようになります。また、現在アメリカ陸軍では、中国やロシアの海軍力強化を念頭にその歴史上、初めてとなる地対艦ミサイルを運用する部隊(マルチドメインタスクフォース。対艦、対空、電磁波、サイバーなど複数の領域にまたがって戦闘を行う部隊)の編成計画が進められていて、2018年の「環太平洋合同軍事演習(リムパック)」では、陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾と、アメリカ陸軍が試験運用している地対艦ミサイル「NSM」が、沖合の標的艦を共同で攻撃する初めての訓練が実施されました。つまり、いざ有事となれば、陸上自衛隊に加えてアメリカ陸軍の地対艦ミサイル部隊も南西諸島などに展開し、共同で敵を攻撃することも想定されます。

【了】

【図】意図は明白、南西諸島の新設駐屯地

Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)

軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。

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