三菱の次期装輪装甲車「MAV」意外な死角 国内防衛産業のため「国産回避」の理屈とは

国産のみに絞らないことが国内防衛産業のためになる理由

 防衛装備庁は次期装輪装甲車の試験用車両として、この三菱重工業製機動装甲車と共に、カナダのジェネラル・ダイナミクス・ランドシステムズ・カナダ製8輪装輪装甲車「LAV6.0」と、フィンランドのパトリア製8輪装輪装甲車「AMV XP」を導入することも明らかにしています。

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防衛装備庁が次期装輪装甲車の試験車両として導入を決めた「LAV6.0」(画像:ジェネラル・ダイナミクス・ランドシステムズ・カナダ)。

 防衛省が、欧米諸国の装輪装甲車と比べても性能面で見劣りがせず、また16式機動戦闘車との共通性による運用コストの低減と補給の効率性向上が見込める三菱重工業の機動装甲車をそのまま導入せず、外国製の装甲車と比較試験を行なった上で次期装輪装甲車を選定する理由のひとつは、国内防衛産業が大きな曲がり角を迎えていることにあります。

 2019年2月21日付の読売新聞は、装輪装甲車(改)を開発した小松製作所について今後、陸上自衛隊向けの装甲車の新規開発を行なわないと報じています。これまで陸上自衛隊の装甲車は、日立製作所が少数を製造した「96式自走120mm迫撃砲」などの一部の例外を除けば、三菱重工業と小松製作所が開発してきました。もし小松製作所が装甲車の開発から撤退すれば、まとまった数の装甲車の製造を行なえるのは、三菱重工業1社になってしまいます。

 防衛省や陸上自衛隊の中にはこの、まとまった数の装甲車を製造できる企業が三菱重工業1社だけになることを危惧する声も根強くあります。このため防衛省と陸上自衛隊には、外国製の装輪装甲車を小松製作所や日立製作所に製造させることで、装甲車の国内製造基盤を維持しておきたいという考えがあり、それが試験用車両として外国製装甲車を導入することになった理由のひとつと見られています。

 次期装輪装甲車の導入計画は陸上自衛隊の戦力面だけでなく、日本の防衛産業の今後のあり方も左右すると言っても過言ではないと筆者は思いますし、それゆえに今後の推移を注目していく必要があるとも思います。

【了】

【写真】三菱「MAV」のライバルのひとつ フィンランド製装輪装甲車「AMV XP」

Writer: 竹内 修(軍事ジャーナリスト)

軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。

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