425km/hの新幹線高速試験電車952・953形「STAR21」 総合力を武器にしたその戦いの歴史
高速化を支えたインフラ技術
この速度記録にはもちろん、STAR21が目論み通りの車両性能を発揮したということもありますが、STAR21を支えたインフラの役割も忘れてはなりません。レール表面の小さな凸凹は、「スペノ」と呼ばれるレール削正車両で削り、滑らかにされました。これによって予期せぬ振動を抑えられるほか、車輪が発生する転動音を抑えることもできました。
STAR21に電気を供給する架線も、CSトロリー線・TAトロリー線という400km/h走行に耐えられるものに交換。さらに架線を引っ張る力を1.5tから2tに強化して、架線の振動を抑えています。
こういったインフラ強化も功を奏し、425km/h走行でも振動は従来の半分程度に、線路にかかる負担も200系新幹線電車(240km/h走行)よりも低いという結果が出ました。乗り心地レベルや騒音レベルも、ほぼ基準内に収まったといいます。STAR21の速度記録は、新幹線はインフラと車両の総合力で性能が決まることを教えてくれたのです。
STAR21は予定された試験を終え、1998(平成10)年2月17日付で廃車。952形は滋賀県の鉄道総合技術研究所風洞技術センターに、953形の一部は宮城県のJR東日本新幹線総合車両センターに保存されています。
STAR21が残した数々のデータは、のちに登場するE2系新幹線電車などに反映されました。車両技術だけでなくインフラ技術も、東北新幹線の320km/h運転に受け継がれています。
JR東日本は試験車両として、さらなる環境性能と高速性能の両立を目指し、2005(平成17)から006(平成18)年にかけてE954・E955形「FASTEC360」を製造。さらに現在は、IoTとAIを活用した試験車両であるE956形「アルファX」が、営業運転速度360km/h、最高速度400km/hを目指して試験を行っています。
【了】
Writer: 児山 計(鉄道ライター)
出版社勤務を経てフリーのライター、編集者に。教育・ゲーム・趣味などの執筆を経て、現在は鉄道・模型・玩具系の記事を中心に執筆。鉄道は車両のメカニズムと座席が興味の中心。座席に座る前に巻尺を当てて寸法をとるのが習慣。言うなれば「メカ&座席鉄」。
コメント