「超音速プロペラ機」確かに速いが悪夢にしかならなかったワケ XF-84Hターボプロップ実験機

第2次世界大戦の終結直後はジェット機の黎明期。さまざまな実験機が開発され、テストに供されましたが、そのなかには新機軸を搭載したがゆえに、発生する騒音や衝撃波がひど過ぎてお蔵入りになったターボプロップ実験機がありました。

「金切り声」がひどすぎて飛行終了

 XF-84H「サンダースクリーチ」が生み出すソニックブームは25マイル(約40km)離れたところでも聞こえたそうで、連続して襲って来る轟音と衝撃波により、地上の整備兵たちはひどい吐き気や激しい頭痛に襲われたといいます。ある例では、同じエプロンに駐機していたダグラスC-47輸送機の機内で作業中のクルーチーフが30分間もXF-84Hのプロペラ轟音に晒された結果、機内にいたにもかかわらず失神する事態となったほどでした。

 加えてこの轟音と衝撃は、単に人間に被害を及ぼすだけではありませんでした。デリケートな航空電子機器や飛行場管制設備の破損や故障の原因にもなったのです。ゆえに管制塔は、無線ではなく発光信号で、離陸準備中のXF-84Hに指示を出すほどでした。そのため同機のフライトテストは、後半ともなると他機やほかの航空要員に被害が出ないよう、飛行場の中心部から離れた外縁部で離着陸を行うよう指定されるまでになります。

 実は、XF-84Hが搭載するXT40-A-1ターボプロップ・エンジンは、プロペラ推進エンジンとして唯一、アフターバーナーを装備するものでしたが、それを用いたことは1度もありませんでした。にもかかわらず、フライトテストでは最大速度マッハ0.7を記録しています。

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国立アメリカ空軍博物館で保存・展示されるXF-84「サンダースクリーチ」の51-17059号機(画像:アメリカ空軍)。

 結局、前述したようなプロペラに起因する問題から、XF-84H「サンダースクリーチ」は2機が造られたものの、リパブリック社のテストパイロットの操縦だけで、アメリカ空軍のテストパイロットが操縦桿を握ることは一度もないまま終わりました。ちなみに、2機合計の飛行回数はわずか12回、飛行時間の合計も7時間未満と伝えられます。

 アメリカ空軍に引き渡されなかったXF-84H「サンダースクリーチ」ですが、製作された2機のうちの1機(51-17059号機)は、国立アメリカ空軍博物館にて保存・展示されています。

【了】

【写真】プロペラないと全然違う XF-84H「サンダースクリーチ」の原型

Writer:

東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。

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