チャーチルお気に入り「プリンス・オブ・ウェールズ」喪失の意味 新鋭艦なぜ極東へ?

英戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」は当初、英本国艦隊に所属し、独戦艦「ビスマルク」とも砲火を交えましたが、その最期はマレー沖海戦です。東洋艦隊への編入に際し同艦が背負っていたのは、まさに大英帝国の威信そのものでした。

「プリンス・オブ・ウェールズ」と共に沈んだものとは

 チャーチルは「プリンス・オブ・ウェールズ」をアジアの東洋艦隊(当時は中国戦隊など極東に置かれた3つの戦隊の総称。1941年12月8日、東インド戦隊と中国戦隊を統合し正式発足)へ派遣するよう求めますが、海軍は欧州を重視し、「日中戦争に5年もかけてまだ勝てない」日本を過小評価して反対します。しかし東洋艦隊は、対外的な抑止力の示威と、内政的には植民地体制維持という、植民地に居住するイギリス本国の国民に対する安全保障の要でした。結局、国内外への宣伝効果も期待して「プリンス・オブ・ウェールズ」は東洋艦隊に編成され、12月2日、同艦隊の拠点であるシンガポールへ到着します。

 しかし、太平洋戦争開戦2日後の12月10日に「プリンス・オブ・ウェールズ」は、日本海軍航空隊の攻撃で撃沈されてしまいました。

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駆逐艦「エクスプレス」から撮影した、空襲で被害を受け傾斜した「プリンス・オブ・ウェールズ」の乗員を救助する様子(画像:帝国戦争博物館/IWM)。

 歴史学者であるアーノルド・J・トインビーは「1941年、日本は全ての非西洋国民に対し、西洋は無敵でない事を決定的に示した。この啓示がアジア人の志気に及ぼした恒久的な影響は、1967年のヴェトナムに明らかである」と後に評しています。

 太平洋戦争後から急速に、それまでの各国の植民地体制は崩壊していきます。「プリンス・オブ・ウェールズ」の亡失が、チャーチルにとって回顧録に残すほどの衝撃だったのは、お気に入り艦だったからではなく、相手が航空機だったことでもなく、トインビーが後に評したように、イギリスの絶対的と思われていた植民地権益がアジア人に脅かされる危険性を感じ取ったからではないだろうかと、筆者(月刊PANZER編集部)は思います。

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英海軍空母「クイーン・エリザベス」。空母打撃群「CSG21」は本艦を中心に米蘭艦艇含む駆逐艦、フリゲート艦、補給艦、給油艦、潜水艦の10隻で編成(画像:アメリカ海軍)。

 2021年現在、「プリンス・オブ・ウェールズ」は比較的、浅い水深に身を横たえ、条件が良ければ海面からもその姿を見ることができるといいます。空母「クイーン・エリザベス」の来航と、南シナ海に覇を唱えようと進出してきた五星紅旗を掲げる艦の往来を、海底の彼女はどのように見ているのでしょうか。イギリスは現在でも地政学的に「太陽の沈まない国」です。80年前と同じ歴史が繰り返されないことを、彼女は海底から祈っていることでしょう。

【了】

【写真】「PoW」艦橋と特徴的な四連装主砲 「ソードフィッシュ」を添えて

Writer:

1975(昭和50)年に創刊した、50年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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