イギリス傑作機「ランカスター」出生のヒミツ 兄貴分「マンチェスター」爆撃機が消えたワケ

あまりにも違った理想と現実

「ヴァルチャー」エンジンであれば、当時の主流だった1000馬力級エンジン2基分の出力を1基で賄えます。それであれば、理論上はエンジン4発が必要な大型爆撃機であっても、エンジン2発で同等の出力を得られ、さらにエンジン・ナセル(カウル)が左右両翼にひとつずつで済むことになるので、4発機よりも空力学的に優れたデザインにまとめることができるようになります。おまけに「エンジンの数」は2基なので、4発機なら4組が必要なエンジン回りの各種補機類などが半分の2組で済み、構造の単純化とコンパクト化というメリットまで得られます。

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液冷X型24気筒エンジンを2基装備したアブロ「マンチェスター」爆撃機(画像:イギリス帝国戦争博物館/IWM)。

 こうして、ヴァルチャーを搭載した機体はアブロ「マンチェスター」Mk.Iと命名され、1940(昭和15)年7月からイギリス空軍への納入が始まりました。ところがヴァルチャーエンジンは、理想とは裏腹にオーバーヒートと機械的故障が頻発。試作段階から改善の努力は続けられていましたが、一向に効果がありませんでした。

 そのため、「マンチェスター」が配備された第97爆撃中隊では、ヴァルチャーの不具合で稼働率が低く、飛べても不時着があまりに多いことから、隊員たちは部隊名を「第97爆撃“歩兵”中隊」と自嘲するほどでした。ちなみに本機は試作機を含めて202機が生産されたものの、そのうちの約25%が墜落事故で失われたといわれています。

 もちろん、イギリス空軍もアブロ社も、新型であるはずの「マンチェスター」が抱えたこのような欠陥に対して、手をこまねいていたわけではありません。考えられたのは航空機にとっての「心臓移植」、つまりエンジンの換装でした。試行錯誤の末、結局、スーパーマリン「スピットファイア」やホーカー「ハリケーン」といった傑作戦闘機のエンジンとして定評のあったロールスロイス「マーリン」液冷エンジンを用いて4発化するという、オーソドックスな案に落ち着きました。

 こうして完成したのが、4発エンジン爆撃機となった「マンチェスター」Mk.IIIです。

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